天河原中は、勝敗指示で勝ちが決まっていたのに、反逆した雷門中に負けた。
しかも、反逆者は4人。
なのに負けた。
いつもなら騒がしい控え室は、選手の嗚咽しか聞こえない。
しばらくして、フィフスセクターに呼ばれた監督が深刻そうな表情で控え室に戻ってきた。
「隼総君、フィフスセクター…聖帝がお呼びです」
監督の言葉に、控え室を包んでいた悲しい雰囲気に緊張が走った。
監視者として送り込まれた隼総がフィフスセクター…しかも聖帝からの直々の呼び出しだ。
隼総は、ベンチから立ち上がると覚束ない足取りで監督の方へ歩き出した。
「隼総、行くな」
喜多は隼総の腕を掴んだが、隼総は首を横に振り「大丈夫だ」と振りほどいた。
「あの聖帝からの呼び出しだろぉ?」
「行くな!隼総!」
西野空と安藤で止めるが、隼総の意志は堅い様で隼総は二人を振りほどいて、控え室のドアの前まで来た。
「隼総!」
私はドアの前で両手を広げた。
隼総は、「退いてくれ」と、言うが私は首を振って拒否した。
「聖帝が呼んでいるんだ!退け!」
「嫌だ!」
隼総の背後が真っ黒くなる。
化身を出して脅かそうだなんて、そんな手には乗らない。
隼総を睨んで、「絶対に退けない!」と叫んだ。
「諦めろ、隼総。俺たちは退かない」
ポンと肩を叩かれ、振り向くと喜多が笑っていた。
天河原イレブンが、ドアの前に立っていた。
「隼総、俺はキャプテンとして…いや、友人としてお前に言う。行くな!」
「喜多…」
喜多に続いて、みんなも隼総に「行くな」口々に言った。
「監督からも何か言って下さい!」
喜多が、先ほどから呆然と突っ立っている監督にも隼総を止めるように頼むが、監督はため息を吐いた。
「あー!もう!あなたたち、勘違いしてない?」
張り詰めた雰囲気をぶち壊すように、ずっと黙っていた監督がヒステリックに叫んだ。
みんながキョトンとしている中で、喜多が「隼総が聖帝に呼ばれた…」と言っているのを遮るように、監督は再び叫んだ。
「もう!隼総君が聖帝に呼ばれたのは、報告するため!ちょっとは、今回の件については言われるとは思うけど、処分されるのは勝敗指示を破った雷門!隼総君は、処分なし!さっき、呼ばれた時に言われたから安心しなさい!もう!この子たちは勝手に勘違いして!!」
監督は、疲れたのかベンチにドカッと座った。
西野空が、「いや、監督が深刻そうに戻ったからぁ…」と、元々下がっている眉を少し下げて監督に聞くと、「試合に負けて悔しかったからよ!」と、怒鳴ると泣き出した。
「隼総君、聖帝はせっかちな人だから急がないと本当に処分されるわよ」
監督の言葉に先ほどまで通せんぼして、「行くな!」と言っていた天河原イレブンは、「早く行け!」と、隼総をドアまで押し出した。
「おま、さっきと言ってる事ちが」
隼総が全て言い終わる前に控え室のドアが閉まった。
「あいつら、勝手に勘違いして…」
「まあまあ」
「なまえ…」
みんなの対応に怒りで握りしめていた拳を両手で包んだ。
「ま、面白かったからいいか」
隼総は笑って、握りしめていた拳を解き、私の指を絡めた。
「良かった、勘違いで」
「なまえも俺が処分されると思った?」
小さく頷くと、隼総は私の頭を繋いでいない方の手で撫でた。
「途中まで、一緒に行くよ」
報告とは言っても、あの聖帝に会うからか、笑っている隼総の表情が強張っていた。
「じゃあ、行くか」
隼総と手をつなぎながら、聖帝の部屋までの長い廊下を歩き出した。