背伸び

典人は、腕を組むと怒る。本人曰わく、身長の差が恥ずかしいらしい。あと、キスも嫌がる。本人曰わく、見上げないといけないと出来ないから惨めになるらしい。典人は、男子の平均身長より低い。一方、私は女子の平均身長より高い。恋人が当たり前のように行う行為をプライドの高い彼は断固拒否をする。私たちは、彼女彼氏と言う関係なのにプラトニックなお付き合いをしていた。
典人と仲の良い南沢先輩によく相談するが、「倉間は辞めて、俺にしろ」と、トンチンカンなアドバイスしか頂けない。南沢先輩も私より背が低い癖に。言ったら何されるか分からないから絶対言わないけど。

ある日。いつもの様に、部活中の典人を待っている間、図書室で本を読んでいたら南沢先輩が隣に座った。
南沢先輩は、私の読んでいる本を覗きこむように私の肩に頭を乗せると

「なまえは、どうして倉間とつきあい始めたんだ」

と、聞いてきた。付き合ったキッカケは、私が典人が好きで告白したら、彼も満更でもない感じだった。典人の「ありがとう、今日からよろしく」と、不器用に笑ったのは、最初で最後のデレだったかもしれない。

「…好きだからです」

南沢先輩は、へぇ…と吐息混じりに呟くと、私の耳たぶを舐めた。

「な、なななななな」

椅子から立ち上がり、慌てていると、南沢先輩は口元を吊り上げて笑っていた。顔が熱い。

「南沢先輩、何してるんですか」

「何って、なまえの耳を舐めたけど」

私の脳内で、警報がなった。ここは図書室だが、最終下校前で生徒はいないし、司書の先生も随分前に放送で呼ばれて帰って来ない。

つまり、私は南沢先輩と二人っきり。

危険な予感しかしない。後退りすると、南沢先輩も椅子から立ち上がり、私の名前を呼んで近づく。気が付くと、窓辺まで追い込まれていた。

「俺さ、倉間より前からなまえの事狙ってたんだよね」

そう言って、左手で私の肩を掴み、右手を顎に添えて下げると、南沢先輩は厭らしく笑った。

「の、典人…」

南沢先輩の顔があと数センチの所で、ダンと窓を叩く音がした。振り返ると、私の後ろにユニフォーム姿の典人が窓に両手をつけていた。

「典人」

窓を開けると、典人は拳を握りしめ私達を睨んだ。

「何してんですか」

唇を噛み締めて典人は言うと、南沢先輩は

「見て分からない?」

と、笑った。何言ってるんだよコイツ!と、思って事情を説明しようとしたら「なまえは黙って」と、言われた。

「南沢さん、また人の彼女に手を出そうとしたんですか」

典人がそう言うと、南沢先輩は否定も肯定もせず、ただ微笑むだけだった。

「なまえ、すこし屈んで」

典人にそう言われ、少し屈むと、典人は背伸びして私にキスをした。
驚いたが、目を閉じて典人に委ねることにした。
唇が離れると、典人は南沢先輩に「なまえは絶対に渡さない」と、言った。南沢先輩は、「ハイハイ、こうさーん」と言って図書室を出た。



典人の部活が終わり、一緒に帰っていた。

「南沢さん、悪趣味だから人の彼女取るのが好きなんだよ」

典人はそう言うと、先程の事を思い出したのか、うわあああと叫んだ。

「あいつ、先輩じゃなかったらぶん殴ってたのに。あと、なまえは危機感が無さ過ぎ」

典人にそう言われて、謝ると、先程のキスを思い出してうへへと笑った。

「本当に反省してる?」

「してるよ!」

石畳の階段を下りていると、典人は急に立ち止まった。私は典人が止まった気が付いて、典人の1段下に止まった。1段高い典人は私よりちょっと高く、目線を合わせると少し頭が上がる。

「俺さ、絶対なまえよりデカくなるから」

典人はそう言うと、私の後頭部を押さえると、唇を重ねた。
名残惜しく離れた典人の唇を見つめ、「期待してる」と言った。

「あと腕組ませるのは、俺が身長伸びたときになるけど…」

そう言うと、典人は手を差し伸べた。私は、何のことだろうと、典人の様子を窺っていると、

「手、繋いでやる」

私は嬉しくて典人の指先を絡めた。

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テーマ「人外ファンタジー」
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