今日は急遽決まった練習試合で、秀徳バスケ部は慌ただしい雰囲気だった。
そう言えば、昨日緑間に拉致されて今日のスタメン聞いてなかった事を思い出して、オーダー表を確認すると、宮地先輩の名前があった。口元を綻ばせて、オーダー表を抱きしめながら一回転すると、近くを通った宮地先輩に「遊んでんじゃねーよ!」と注意されたので慌てて設営に戻った。
「本当になまえは宮地が好きだよね」
インターハイ出場記念に学校から寄贈された試合用のLED電光式スコアボードを一緒に運んでいた根岸先輩は、私の顔を見て呆れ返っていた。
「宮地先輩は私の憧れですから」
「一途だね」
スタメンがウォーミングアップしているコートの横を通ると、スタメン、ベンチを含めた選手がハーフコートでパス練をしていた。そして、その反対側のハーフコートでは、緑間が一人でシュート練をしていた。緑間の傍若無人な態度に少しギクシャクした雰囲気に根岸先輩は苦笑いした。
「あの、キセキも出るみたいだね」
「そうみたいですね…」
スコアボードを設置して、再びオーダー表を確認すると、スタメンの中に緑間の名前があった。そして、前回の練習試合でSGだった先輩の名前が二重線で消えていることに気がついた。そして、今日その先輩が来ていない。
「あの、先輩」
「辞めたよ。昨日、緑間のシュートお披露目会のあと監督に言ってた。あと、一軍のSGも何人か一緒に辞めたよ」
「え!?なんで辞めちゃったんですか?」
「あ、なまえは緑間に拉致されたから監督の話聞いてないか。緑間を中心としたチームを作るんだって。つまり、緑間がポジションを移動しない限りずーっと秀徳のSGは緑間なんだって」
愕然とした。今まで、練習がキツイとかで辞めていった人もいた。それでもそれを乗り越えてレギュラーになった人が、緑間の加入をきっかけにあっさり辞めてしまった。
「監督は、それが『キセキの世代』を獲得するという事だって言ってた」
根岸先輩は緑間の背中を見つめると、悲しそうに眉を下げた。
少しずつ、何かが変わり始めていた。