「ここで会えるとは思わなかったのだよ」

3月の下旬に入り、桜の蕾もほころびはじめて柔らかな陽射しを感じるこの頃。秀徳高校体育館では今日もバスケットボールがバウンドする音とバッシュのスキール音が響く。私の目の前ではミニゲームが繰り広げられていた。

「宮地さん、カッコいい」

無意識に目を追ってしまうぐらい私は宮地さんが好き。辛辣で厳しいけど、それ以上に自分に厳しくて、遅くまで自主練している所とか、バスケが上手な訳じゃないけど、それを努力でカバーするところが好きです。もう本当に。

「なまえ、スコアボード」

先輩マネージャーの根岸先輩に呼ばれ、意識を戻す。宮地さんからのパスで大坪先輩がダンクを決めた。私は宮地先輩ナイスアシスト!カッコいい!キャーーーー!と叫びたいのを抑えてスコアを二枚めくった。



「はい、集合」

ミニゲームが終わった頃に監督がやって来た。ミニゲームが終わって休憩していた部員が一斉に監督の前に集まって一斉に挨拶する。監督はわざとらしく咳払いすると、口を開いた。

「えーっと、連絡事項。明日、練習試合が入った。10時からで、場所はうち。相手は…」

ぶつぶつと聞き取り辛い小さな声で監督は連絡事項を伝える。明日練習試合が入ってげんなりする。
ウィンターカップが終わって先輩が引退してから未だにスタメンが安定しなかった。調整段階というのもあるけど、あの「キセキの世代」が入部するからもある。

「あと最後に、明日の練習試合のメンバー発表前にもうひとつ」

入れと、監督が言うと体育館のドアがゆっくり開いた。そこには見慣れた秀徳のジャージを着た背の高い男の子が立っていた。彼は丁寧に体育館のドアを閉めると、私たちの前に来た。

「今日から彼も練習に参加するから」

隣にいた同級生が「もしかして…」と、呟いた。部員たちが固唾を飲んで見守るなか、彼は眼鏡のブリッジをテーピングを巻いた指で上げた。

「帝光中出身、緑間真太郎。ポジションはSG」

彼はそう言うと、呆然としていた私達を見た。これが、キセキの世代ナンバーワンシューター…。ものすごい、生意気なんですけど。ねぇ、普通だったら「よろしくお願いします」とかさ、言わない?これから一緒に練習して、切磋琢磨し合うメンバーだよ?正直、初めて生で見たけど生意気だ。

「じゃあ、緑間に部室案内して…じゃあみょうじ」

「あ、はい!」

監督に呼ばれて前に出る。一応、作り笑顔で「みょうじなまえです」と、自己紹介すると興味無さそうにそっぽ向いていた緑間が バッと振り返った。そして、私の手首を掴んでずんずんと出口に向かう。

「み、緑間」

「ちょっと来い」

おもいっきり開けられたドアは鈍い金属音をあげた。さっきは丁寧に閉めたドアには見向きもせず、緑間は私を引っ張る。

「何、突然どうしたの」

抵抗するけど、大男相手に勝てるわけなく近くの中庭に連れてこられた。やっと放されてじんわり痛む手首を擦った。

「みょうじなまえ、ここで会えるとは思わなかったのだよ」

緑間は少しずれ落ちた眼鏡のブリッジを上げた。レンズ越しに緑間の瞳が私を捕らえた。翡翠の綺麗な瞳からは微かに怒りを感じた。

「俺はお前を忘れたことはない」

「私、アンタに会うの初めてだけど」

「どうやら、お前は覚えていないようだな」

緑間はそう呟くと、少し悲しそうに笑った。なぜか、その表情に既視感があった。緑間の言い方からして私は彼と1回会っているのかな。記憶を巡らせても、こんな奴とは会った記憶がなかった。

「ねえ、緑間の記憶違いじゃないの?私、アンタのこと知らないけど」

「そうか」

緑間の声のトーンが下がり、肌が粟立つ。刺すような視線を放つ翡翠の双眸が私を射るように捕える。

「俺はお前を赦さないのだよ」

緑間はそう言うと、踵返して体育館のほうへ向かっていった。私はその場に残され呆然と緑間の背中を見つめるしかなかった。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -