彼は愛し方がわからない

曲がり角の先は今まさに修羅場だった。
学年1美人と言われている前田さんと同じクラスで背がとてつもなくデカい紫原くんが別れ話をしていた。前田さんは泣いていて、うわ言のように別れたくないと言っていたが、紫原くんは興味がないのかポテトチップスを頬張っていた。
今は掃除の時間でゴミ捨てを任された私は、修羅場の現場である焼却炉に用事があるのだけど、これは気まずい。

「お願い、私は別れたくないの」

まるでドラマのワンシーンの様に前田さんが紫原くんの腕にすがり付くが、紫原くんはそれを長い腕で振り払った。

「しつこい。いい加減にしないとヒネリ潰すよ」

そう言って睨み付けると、前田さんは怯えた表情を浮かべて、校舎へと逃げていった。紫原くんは、食べ終わったのかポテトチップスの袋を焼却炉に入れると、私のいる曲がり角の方へ向かってきた。

「アララ、誰かいたの?」

壁と同化するなんて無理だった。紫原くんは私に気がつくと、壁にぴったりくっついている私を不思議そうに見た。私は、気まずくて目を逸らした。

「あ、もしかして見てたー?」

「ごめん、覗き見するつもりはなかった」

「別にー気にしてないし」

紫原くんはそう言うと、お菓子がたくさん詰まったセーターのポケットからまいう棒を取り出すと、食べ始めた。何か食べていないと死ぬのかなと少し心配になる。

「紫原くんって、田中さんと付き合ってたの?」

「あーうん」

「なんで別れちゃったの?」

単刀直入に聞いてみた。あの修羅場を考察すると、田中さんは別れたくないと言っていたから、別れ話を切り出したのは紫原くんだと思う。付き合いたい女子にランクインする位、美人な田中さんを振ったことに少し興味があった。

「うーん、田中ちんは可愛くていい子だったけどー」

紫原くんはまいう棒を一口かじった。そしてモグモグしながら少し考え込むと、口を開いた。

「飽きたから捨てた」

「飽きたから…?」

紫原は罪悪感が無いようだった。まるで、玩具に飽きてしまった子供の様だ。
私はそんな紫原が信じられなくて、絶句した。そんな私の様子にも気にすることなく、食べ終わったお菓子の袋を私が持っていたゴミ箱に捨てた。

「人と付き合うとかそんなもんじゃん」

「え?」

指先についたお菓子のカスを舐めとりながら、紫原は言う。

「別に、ただの暇潰しだし」

もう愕然とするしかなかった。
彼にとって恋愛は遊びなのかもしれない。でもどこか冷めた目は何かを求めているように感じた。

「ねーねー、君の名前何て言うの?」

「え、同じクラスのみょうじなまえだけど」

不意に名前を聞かれて、咄嗟にフルネームで返したが、私はお前と同じクラスで席は斜め後ろだけど。おい、紫原。

「ふーん、じゃあ#name3#ちんね」

紫原はそう言うと、私の顎に手を添えると少しあげた。ただでさえ、紫原が背が高いから首が痛くなる位、顔をあげているのにキリキリと首が悲鳴を上げる。紫原。と呼ぶと、ふわりと甘い香りと唇に柔らかい感覚。一瞬だった。

「な、なにするの!?」

「えー、ちゅう?」

「分かってるよ!なんで…キスしたの!?」

紫原は、「もしかして、ちゅう初めてだったー?」と、吃驚していたけど、一応、人並みに恋愛をしてきたから初めてではないけど、彼氏でもない異性とキスとか信じられない。

「違うけど、なんで今キスしたの」

「うーん、暇潰しー」

悪びれる様子もなく、紫原は言った。
私の腕が長かったら、この野郎に一発平手を食らわせたかったけど、体格的に無理なので悔しそうに手を握り締めることしか出来なかった。

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