窓を見ると、灰色の分厚い雲が空を覆って薄暗かった。寒波の影響で今年一番の寒さですと、おは朝のキャスターが言って気がする。
この寒さで、暖かくて甘いものが飲みたいなと思ったけど、ココアや紅茶やカフェオレの気分じゃなかった。でも、校舎内に数台ある自販機で1台だけおしるこがあったのを思い出して、教室から遠いけど、その自販機に向かうことにした。冷えた廊下で身震いしながら、ひざ掛けをマントのように体に巻きつけた。
教室から少し離れた校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下におしるこが入ってる自販機はあった。握りしめて人肌ほどに暖かくなった硬貨を自販機に入れて、点灯したおしるこのポタンを押した。ガタンと、出てきたおしるこを取り出すと冷え切った指先は缶の熱で痛い。少し休憩してから教室に戻ろうと、近くにあったベンチに腰掛けた。
プルタブを開けて、まずは一口。ふう、たまらん。ぼーっとしていたら、クラスメイトの緑間がやってきた。普段教室で高尾と二人で喋ってるイメージだったから、教室から離れてるこんなところに遠征するとは意外だと思った。からんからんと硬貨が落ちる音を聴きながら、また一口飲んだ。
「な、なんだと…」
突然の緑間が自販機の前で、膝からカタンと倒れた。ビックリして見つめると、テーピングでグルグル巻きの人差し指が品切れと点灯したおしるこのボタンを指していた。
「どうしたの、緑間」
「おしるこが品切れだったのだよ」
背の高い男子がしょんぼりする姿はシュールだ。カタカタと震えながら、おしるこおしること呟く姿はB級ホラー並みの恐怖だった。
「良かったら、私のおしるこ飲む?」
緑間に湯気立つおしるこの缶を差し出すと、驚いた様子で「いいのか?」と、聞いてきた。頷くと嬉しそうに微笑まれた。いつも仏頂面で高尾に無理難題を言いつける緑間を見ていたから、突然のこの天使の微笑みにきゅんとした。相手はおしるこ一筋でいつも訳わかんない物を持ち歩いてる緑間だぞ!と自分に言い聞かせた。
「すまない、少し頂く」
おしるこの缶を受け取ると、飲み口に口を付けた。ふと、回し飲みだけど大丈夫かなと少し心配になったので聞いてみた。
「緑間、先に私も一口飲んだけど大丈夫?」
そう聞くと、緑間は唯でさえ内容量の少ないおしるこを吹き出すと、咽て咳き込んだ。なんか申し訳なくて、背中を摩ろうとしたけど高くて届かないから腰の所を摩った。
「大丈夫?」
「大丈夫なのだよ。すまなかった」
緑間はおしるこの缶を私に返すと、顔を背けた。
「別に、回し飲み位、気にしないけど」
そう言うと、緑間は顔を真っ赤にして走り去ってしまった。私は不思議に思って首を傾げると、自販機からカランカランとお釣りの受け取り口に硬貨が落ちたことに気がついた。