1cm

「最悪っス…」

珍しく静かに部室に入ってきた黄瀬は今にも泣きそうな顔で呟いた。いつもなら「センパイお疲れさまっス!今日ねー」と、見えない尻尾を振って騒がしいのに。しょんぼりと項垂れる姿を見て、私は少し心配で声をかけた。

「黄瀬、元気ないね。どうしたの?」

「うううっなまえセンパイ」

ふえええと情けない声を上げ、黄瀬の大きな瞳から涙がこぼれた。私は笠松にキツイ事言われたのかなとか、森山に可愛い女の子紹介しろよって無茶ぶりされたかなと、あらゆる可能性を考えながら黄瀬にハンカチを差し出した。

「センパイ、俺もうダメかもしれないです」

黄瀬は弱音を吐くと、私のハンカチで涙を拭った。普段明るく元気だから、こんなに弱々しい黄瀬を見たのは初めてかもしれない。もしかして、インターハイでの桐皇戦の傷が癒えていないのかもしれない。いや、もうウィンターカップまであと少しだから正直それもそれで困る。

「力になれるか分からないけど、私でよければ話聞くけど」

「なまえセンパアアアイ!」

黄瀬の長い両腕が私の背中にまわり、抱き寄せられた。私の肩に額をくっつけると、黄瀬の柔らかいハニーブロンドが首筋を擽った。まだ泣いている黄瀬をあやす様に背中を軽く叩いた。

「あの…笑わないで聞いてくれまスか?」

顔をあげて首を傾げる黄瀬にドキドキしながら小さく頷いた。

「今日身体測定だったじゃないっスか」

「そうだね」

「身長を測ったんスよ」

「うん、それで」

「背が189cmだったっス」

「…へー、それで」

「え、それだけですよ」

黄瀬は不思議そうに首を傾げた。私は意味が分からなくて頭の中で先ほどの会話を再生するけど、成程。意味が分からない。

「で、悩みって」

「身長が189pだったことっスよ」

「それが悩みなのかが理解できない」

「キセキの世代で黒子っち赤司っち以外は190cm以上なんス。だから190pの壁が厚いことが悩みっス」

「そうか黄瀬」

私と同じ視線になるように、黄瀬に少し膝を曲げてもらった。そして、頭の上に手を乗せると身長が縮ますようにと願いを込めて、黄瀬の頭を力いっぱい握りしめた。

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