くしゅっ。
部室に響いた音に俺は眉を寄せた。少し離れた場所でタオルを畳んでいたマネージャーのなまえが鼻を啜っていた。
「おい、風邪か?」
「ううん、ちょっと肌寒くて」
「じゃあ、何か羽織れば」
「羽織るものがない」
なまえはそう言うと、またくしゅっと、くしゃみをした。
秋口に入ってもまだまだ暑い日が続いていたが、今日は少し肌寒い。俺はため息を吐くと、ロッカーからジャージを取り出した。
「俺の着とけ」
そう言うと、なまえに向かってジャージを投げ、見事になまえの顔面にヒットした。
「ちょっと、宮地。普通に渡してよ」
と、文句を言いつつもなまえは俺のジャージに腕を通す。やっぱり男物で一番大きいサイズだからか、ダボダボしていた。肩はずれ落ち、裾は膝まであった。そんな姿が滑降でつい笑ってしまった。なまえは、笑っている俺を不機嫌そうに見つめていた。
「ひどい、あんたが大きすぎるんだよ」
「はいはい、風邪ひくくからチャック閉めようねー」
小さい子供をあやすように言うと、ジャージのチャックを閉めた。なまえはブラブラする袖口で俺の肩を叩いた。恩を仇で返すとか、ジャージ剥ぐぞ。
「でも、ありがとう。宮地のジャージ温かい」
さっきまでの不機嫌そうなぼさったした表情から、満面の笑みでお礼を言われて何故か赤面してしまった。この俺がこんなちんちくりんにドキドキしてねぇよ!