ふわりと甘い香りがしたと思ったら、ずしっと、圧力がかかり前に倒れそうになるが左足で踏ん張る。肩から長い腕がぶら下がっていた。お、重い。
「紫原」
後ろから抱きついている犯人の名前を呟くと、「なーにー?」と気の抜ける返事が返ってきた。
「紫原、重い」
「重くねーし」
「あんた、この間の身体測定で体重約100キロあったでしょ!」
「99キロだし」
「変わらないでしょ!」
「むう、1キロでも全然違うし」と、ふて腐れる紫原に対して、お前は女子か!と心のなかで突っ込んだ。
「もう、本当に重いから放して」
「嫌だー。なまえちんが丁度良いー」
ずっしりと、もう一段階圧力がかかる。踏ん張っていた左足が限界だと叫ぶ。ああ、もう無理だわと諦めて体を倒すことにしたが、咄嗟に紫原の腕が私の腰を掴んだ。
「アララ、危ない危ない」
視界がいつもより高い。足の浮遊感で紫原に持ち上げられていることに気がついた。
「ありがとう」
紫原のせいで倒れかけたけど、お陰で倒れずに済んだからお礼を言うと、紫原は「んー?」と唸っていた。
「なまえちん、身長いくつ?」
「165cmだけど」
「うーん、東京の友達になまえちんと同じぐらいの身長の子がいてね、その子を抱き上げたときより重いなって」
グサリ、と胸に紫原の言葉が突き刺さった。最近、紫原と一緒にお菓子をよく食べていたから少しお腹まわりが気になってはいた。黙りこんだ私に紫原は止めを刺した。
「大丈夫、今ぐらいふくよかなのが丁度良いよー」
紫原はそう言うと、私を地上に戻し、お菓子を求めて教室へ向かっていった。
私はひとりダイエットを決意した。