07:一番乗りは誰? ≪2021年義勇さん誕生日SS≫ 「義勇さんおかえりなさい!お誕生日おめでとうございます!」 2月8日明け方。 義勇さんが任務から帰還するのを寝ずに待っていた私は、玄関の戸が開くや否やお祝いの言葉を述べながら、思いきり義勇さんに抱きついてみせた。 「……重い」 「はい!一年の中で私の愛が一番に重い日ですからね!」 「いや、そっちじゃなくて身体的な話だ」 勢いよく抱きついたまま、ぶら下がって離れない私に、義勇さんは言った。 「まさか俺の帰りを寝ずに待っていたのか?」 「もちろんですよ。日付が変わって、一番に最初に義勇さんにおめでとうって言いたかったんです。こればっかりは誰にも譲れませんからね」 「……そうか」 居間へと向かう義勇さんの後ろをとことことついていき、背中越しに自分の想いを力説する。 すると何故か義勇さんの足取りが、いきなりぴたりと止まってしまった。そのせいで私の顔は、義勇さんの背中にドスッと当たってしまう。 「いてて……義勇さん?どうかしましたか……?」 「あ……いや、別に……」 今、絶対何かを誤魔化した。 何やら義勇さんが怪しい。 それが分かってしまったら、追求せずにはいられない。 「どうかしたんですね?」 「別に大したことじゃない」 「なら隠す必要はないじゃないですか」 「隠している訳でもないが……」 「じゃあ話して下さいよー。隠し事されるのは悲しいですよー」 明らかに義勇さんの目が泳いでいる。こんな義勇さんは珍しかった。 「そういえば任務を終えた時に、胡蝶がおめでとうと言っていたなと……」 「え……しのぶさん……?」 冨岡さん、おめでとうございます。 きっと彼女のことですから、今夜は寝ずに待っているでしょうね。 合同任務で一緒だったしのぶさんは、任務が終わると義勇さんにそう声をかけたらしい。 ただ自分の誕生日を忘れていた義勇さんは、何がおめでとうなのかよく分からず、特に反応もせずいつも通り帰還したそうだ。 そうして屋敷で待ち受けていたのは、誕生日を祝う言葉と寝ずに待ってた私。そこで改めて、しのぶさんの言葉の意味を理解したとのことだった。 「それじゃあおめでとうって言ったのは、私が一番じゃないんですね…………?」 「何も一番じゃなくても」 「しかもしのぶさんが……」 視界が真っ黒になっていく。目の前を占めるのは、どうしようもないほどに溢れ出す嫉妬の感情だ。 だってずっと気になってた。 二人が……義勇さんとしのぶさんが──。 「つかぬことをお聞きしますが……もしかしてお二人には、お付き合いをしていた過去がおありなんじゃありませんか……?」 「は……?」 「前から思っていたんです。だって、何かこう二人を纏う雰囲気が他と違うと言いますか……分かります分かりますよ?しのぶさんは強くて優しくて美しくて医者としての腕もあって、というかもう何もかもを兼ね備えた完璧な御方ですから、義勇さんが好きになっちゃうのだって分かります!大抵の人達がお似合いだって思うでしょうし、私なんかしのぶさんの足元にも及ばないですけど……!でも、でも今は私のことが……好き、だって……っ」 捲し立ててる途中で、ポロポロと涙が溢れ出てしまった。正直私自身、途中から何を言いたいのか、よく分からなくなってしまった。 とにかく今の私は、嫉妬全開なことだけは間違いない。 「黙ってないで何か言って下さい……っ」 何とまぁ可愛くない言い方だろう。こんなんじゃさすがの義勇さんも呆れるに決まってる。 そう思った矢先。 「ここで抱いても文句はないか?」 はい──? あまりにも斜め上な返事を真顔でされ、驚きのあまり涙もぴたりと止まってしまった。 「一体……何を、おっしゃっているんですか……?」 「思ったことをそのまま口にしているだけだ」 「え、ええ……!?」 「だから思ったことを」 「あの、だから、何だか色々と飛躍してません……!?もっとこう、そう思ったまでの過程とか諸々が……!」 また言葉足らずだったか、と義勇さんが小さく呟く。私は何か考え込んだ様子の義勇さんをじっと見つめ、この後紡がれるであろう言葉を待った。 そうして義勇さんが口を開けば 「胡蝶とはお前が思っているようなことは何もないし、疑われるようなことをした覚えもない。何度も伝えている通り、俺が好きなのはお前だけだ。抱きたいと思ったのは、嫉妬するお前があまりに可愛かったからだ。あとはそうすることでお前が安心し、俺の気持ちが伝わればいいと思った」 口下手とは思えないほど、全ての気持ちを吐露してくれた。 「思ったことを全部口に出したつもりだが、何故また泣く……」 「今度は愛情が過多すぎるからですよぉ……っ」 「そうか……加減が難しいな」 抱き寄せられた体が、義勇さんの中にすっぽり収まる。誰にも渡したくない、私だけの場所。 「泣かせた詫びに何でも言うことを聞こう」 「ダメですよ……義勇さんの誕生日なんですから、義勇さんの望みを叶えないと……」 「俺が望むものは今から貰うから構わない」 「え?私、てっきり夜にお祝いすると思ったので、まだちゃんと用意してませんよ……?」 「分かっているのか?今から貰うのはお前自身だということを。だからここで抱いても文句はないかと聞いた」 言葉の意味を理解し、体温が一気に上がる。 そんなの誕生日なんて関係なく、365日24時間、いつでも私は義勇さんのものなのに。 そう思いながら、彼の甘いキスを受け入れるのであった。 [ back ] |