04:謙抑禁止

 鬼殺隊の日々は忙しい。
 それが柱となれば私なんかでは想像を絶するほどの忙しさなのだと思う。
 そのせいなのかは分からないけれど、珍しく彼が体調を崩してしまった。

「今日一日は安静にしていて下さいとのことです」
「そう。でも僕は行くよ」
「駄目ですよ時透様! そんなお身体で行ったら──」

 身を起こすも、ふらつく時透様を受け止める。

「……クラクラする」
「ほら。まだお熱も高いんですから、無理はなさらないで下さい」

 再び横になるように促すも、その表情から察するに納得はしていないのだろう。
 もちろんこうして責任感が強いところはとても尊敬しているけれど、彼に何かあったらと考えるだけで、生きた心地がしないことも理解してほしい。

「ずっと追ってた鬼の情報を掴みかけてたんだ……」
「駄目です」
「でも僕が行かないと」
「でしたら私が代わりに行ってきます」
「は? それこそ駄目だよ。君に何かあったらどうするの」

 手をギュッと握られ一瞬心臓が跳ね上がる。

「やっぱり僕が行く……」
「と、時透様!」
「どいて」

「駄目っ、むいくん」

 どうしたら彼を止められるのか分からなくて、咄嗟にその名を呼んでしまった。
 霞柱となってから彼との距離は遠いものとなった。かつてのように親しくしてはいけないと自分を律してきたし、常に失礼のないように心がけてきたつもりだ。
 ましてや好意を伝えるなんて以ての外──。

「……それは反則でしょ」
「す、すみませんっ。馴れ馴れしく……!」
「謝らないでよ」

 彼の指が私の髪を掬う。

「久しぶりに名前で呼んでくれた」
「あ、えと……」
「ずっとそう呼んでほしいと思ってたんだ」

 てっきり怒られると思ってたのに、どことなく嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。髪を掬っていた指が頬に伸び、私は背筋をピンと伸ばした。

「今はまだ我慢するよ」

 そうして彼は訳が分からず戸惑う私に。

「早く風邪を治して君にキスがしたいから」

 そう笑って見せるのだった。


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