03:あそびましょう

「実弥さーん、あーそびーましょー」

 彼の屋敷を訪ね大声で呼んでみるも返事はない。しばらくじっと待ってみるも、やっぱり反応がないのでもう一度呼ぼうと思ったその時。

「……朝から煩ぇなァ」

 寝ぼけ眼の実弥さんがやっと屋敷を開けてくれた。

「おはようございます、実弥さん」
「何時だと思ってやがる……」
「だってもう約束の時間ですよ?」
「……テメェが一方的にした約束だろうがァ」

 いつになく不機嫌なことこの上ない。そのうえ一方的というのは心外だ。
 そもそも実弥さんは約束事に関してこちらがどれだけ確認しようと、いつだって返答はしてくれない。
 だから今日だって朝5時に行きますね。いいですか。本当に行きますよって何度も確認したのに。

「来い」

 何故か腕を引っ張られ屋敷の中へと連れ込まれる。気がつけばあれよあれよという間に、私の体は先ほどまで実弥さんが寝ていた寝床へと沈められた。
 何をするのかと思いきや、上から唇が降りてきて有無を言わさず受け止める形になった。
 実弥さんの温もり、目覚めのキス、滑り込む彼の手……。
手? って違う違う!

「何してるんですか!」
「あァ? 遊ぼうって誘ったのはテメェの方だろォ」
「稽古です、稽古! 約束したでしょう?」
「じゃあ予定変更だァ」
「ダ、ダメ……! 変更却下です!」

 実弥さんの額をペチっと叩くと、先ほどまで寝ぼけ眼だったその目がカッと見開いた。

「私、実弥さんと稽古したいです……ね?」

 なのでこちらも負けじと懇願してみる。

「……俺にこんなことして許されるのはテメェくらいなもんだ」

 すると実弥さんは額を擦りながら身を起こし、私を解放してくれた。
 実弥さんが優しいことも、いつだって私の願いを叶えてくれることも、私はちゃんと知っている。
 私だって本当はもう少し甘い時間を過ごしたい気持ちもあるけれど、でもそれはまた夜に。

「ふふ。可愛いですね、それ」
「あァ?」
「寝癖のことです。何だか子供みたいで可愛いなぁって」

 自分の気持ちを素直に伝えたら、再び私の体が寝床に沈んだ。

「……やっぱり稽古より先にテメェを抱く」
「はい!?」
「ガキ扱いしたことを後悔させてやるよォ。なァ?」

 もうすでに後悔していると降参しても、許してはくれない実弥さんなのでした。


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