02:黙って俺に愛されろ

 いい加減しつこいです。
 何度伝えても彼は怯まない。

「いい加減俺の嫁になれ」
「なりません」
「っとに強情だな」
「それはこっちの台詞です」

 音柱である宇髄天元とこのやりとりをするのは何度目だろう。普通の女の子ならロマンチックなプロポーズになりえそうな場面も、私にとっては悩みの種でしかない。

「相思相愛を夢を見てんだろ?」
「普通女の子は皆そうですよ」
「じゃあ心配いらねェな。俺の側にいたらすぐ俺を好きになる」
「そ、そういう問題じゃないです!」
「じゃあ何が問題なんだ」

 不満げな彼の表情を見て胸が痛くなった。
 彼に問題など一切ない。問題があるとすれば、それは私の方だ。

「……天元さんのところは、すでに素敵なお嫁さんが三人もいらっしゃるじゃないですか」
「まぁそうだな」
「皆さんがとても仲睦まじく過ごしてることは知っていますし、天元さんが奥様達を凄く大事にしていることも知っています。その様子を黙って見ていられるほど私は出来た女じゃないんです」
「そりゃお前──」

 とても子供じみた理由だと自分でも思う。だから今の今まで隠してきた。

「私は好きな人は独り占めしたい、心の狭い女なんです」

 私以外愛してほしくない。触れてほしくない。
 何とも幼稚で醜い独占欲にまみれた私が、天元さんの隣にいる資格などないのだ。

「……俺はとんだ勘違いをしていたみたいだ」

 これできっと諦めてくれる。そして私も諦めなければならない。
 そう思っていたのに──。

「よし、そうと分かればさっさと派手に飛び込んでこい」
「はい?」
「ほら、早くしろ」
「な、何でそうなるんですか!」

 両手を広げて笑う天元さんに戸惑いが隠せない。この人はちゃんと私の話を聞いていたのだろうか。

「今なら俺達二人しかいない。俺を独占したいんだろ?」
「そういう意味じゃ……」
「黙って俺に愛されろ。そうすればその可愛い独占欲をすぐに満たしてやる」

 今この場面で大好きな笑顔を向けられてしまうと、非常に困ってしまう。そのうえ好きな人にそこまで言われて振り切れるはずもない。
 一枚も二枚も上手な彼にどれだけ抵抗しても、結局は無駄なことなのだろう。

「責任持って派手に抱いてやる」
「派手に……!? む、無理です遠慮します! だって、私、その」
「何だ」
「そういうことは、その、初めてなので……」

 天元さんの動きが止まる。

「ったく、お前はよ……」
「……すみません」
「そうじゃねェよ。つくづく可愛い女だなって思っただけだ」

 観念した私は、結局この後天元さんと、ド派手な一夜を過ごすこととなる。
 その後天元さんのお嫁さん達に迎えられ、五人での生活が始まるのはもう少し先のお話。


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