01:午前0時、燦めく命

≪2020年義勇さん誕生日SS≫


「これ以上はダメです……っ」

 二度目の果てを経ても、まだ続けようとする義勇さんを必死で制御する。何故、という目で見つめられてもこればかりは譲れない。

「今日はこのまま気絶する訳にはいかないので……!」
「なら気絶しないようなるべく譲歩しよう」
「そ、そういう問題じゃないですし、その約束すら破りそうじゃないですか!」

 納得のいかない顔を見せられても、とにかく譲れない。

「ちゃんと0時まで起きていたいんです」
「理由は?」

 理由って、明日は一年に一度だけの特別な日じゃないですか。そう私が必死に伝えても、今ひとつピンときてない様子の義勇さん。
 しかもその手は止まることなくまだ動いている。

「あ、ダメですってば……っ!」
「明日何かあるのか?」
「何かって、明日は義勇さんのお誕生日ですよ?」

 知りたがっていた理由を告げると、義勇さんはやっと動きを止めてくれた。ついでにその反応から察するに、きっと自分の誕生日を忘れていたのだろう。

「だからダメだって言ったんですよ」
「別に俺にとっては大事な日でも何でもないが……」 
「何を言ってるんですか! 大事ですよ! 例え義勇さんが大事に思ってなくても、私にとっては一番大事なんです!」

 私の剣幕に押されたのか、義勇さんはそうかとだけ呟いて隣に寝転んだ。視線がぶつかり自然と笑みが零れる。

「義勇さんが生まれた日も、今日みたいにとても寒い日だったんですかね?」
「……どうだろう。覚えてはいない」
「ふふ、そうですよね。子供の頃の義勇さんに会ってみたいなぁ。きっと凄く可愛いんでしょうね。私ずーっと抱っこしてられそうです」
「お前の発想は相変わらず変わっているな」

 だって小さい義勇さんですよ?
 絶対に可愛いに決まってる。それに大好きな人のことなら、どんな些細なことでも知りたい。
 過去に戻れなくとも、こうして思い出話の中だけでも、いつだって私は義勇さんに近づきたい。

「あ、もうすぐですよ。ごー、よん、さん……」

 2、1──。

「お誕生日おめでとうございます!」

 もぞもぞと義勇さんに近づきギュッと抱きしめる。

「今年も一番にお祝い出来て嬉しいです」

 願わくば来年も……ううん。ずっとずっとこうして私が一番に祝えたら。いつだって貴方の側にいることが一番の幸せだから。

「生まれてきて下さって、私とこうして側において下さってありがとうございます。大好きです、義勇さん」

 変わらない想いを伝えると、いつの間にか私の視界が、天井と私を見下ろす義勇さんに変わる。

「もう止める理由はないな」
「え?」
「さっきの続きだ。これ以上は我慢出来ない」

 耳元で囁かれ一気に体温が上昇する。口下手な義勇さんが表す愛情表現を、私は全身で受け止めた。
 その後義勇さんが「ありがとう」と伝えてくれたことは、結局気絶してしまった私の記憶には残されていなかった。


 おまけの当日。

「これを煮込んで、それから……。ん? 義勇さん、どうかしましたか?」
「随分と楽しそうに料理をしているなと」
「それはそうですよ。義勇さんのことばかり考えて作ってますから」

 鼻歌まじりで大量の鮭大根を作る。
 義勇さんは喜んでくれるかな。たくさん食べてくれるかな。私の頭の中はいつだって義勇さんのことばかり。

「念のため火は止めておけ」
「え? あっ、待っ──」
「今日は日付をまたぐ前に気絶しても大丈夫だな?」
「はい!? 大丈夫じゃありませんよ……! 鮭大根は……あっ、こんなところで……っ」

 私が制止しようと今日が誕生日だろうと、義勇さんは変わらず私を愛してくれるのだった。


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