MEZZO"と猫と私 -1週間後-


近い。とにかく近い。

「あの……えーと……」

天くんが近い。

「天くん……」
「何?」
「TRIGGERの曲をかけてもよろしいでしょうか……」
「もちろん。ボクに気にしないで好きなだけどうぞ」

気にせずなんて絶対無理です。
こんな後ろから抱きしめられた状態で……!


先日、MEZZO"が昴のスタジオに遊びに来てくれた日から一週間が経過した。
それはつまり

“一週間後、楽しみにしてて”

そう言っていた天くんが、私のマンションを訪れる日がきたということだ。

天くんは新しい音源を手にやってきた。TRIGGERの新曲、それも発売前の完パケ音源だ。レコーディングの話を聞いた時から、どんな曲なのか今日までずっと気になっていた。
そんな、やっと手に入れたTRIGGERの新曲。
音源を片手に二人で防音室に入る。機材の前に立ち、さぁこの十分設備が整った部屋で思いっきり三人の歌声を堪能しよう、なんて思ったところまでは順調だったのに。

事態は突如天くんが私を後ろからぎゅうっと抱きしめたことで急変した。
これってもしかして……ううん、もしかしなくても。

「天くん、その、これは……」
「ボクのことは猫とでも思ってくれればいいから」

やっぱりてんてんって呼んだことを根に持ってらっしゃる……!!!!

カチンコチンに固まる私の首筋に、少しずつ天くんの唇が触れていく。ゆっくりと天くんの顔が沈んだかと思ったら。

「あ……っ!」

今度はちゅうっと強く吸われ、思わず声が漏れてしまった。

「凄い感度」
「だって天くんが……っ」
「あれ、ボクのことは天くんじゃなくて、てんてんじゃなかった?」

耳元で囁かれ全身がゾクリとした。
たったそれだけのことで、私の思考も体もあっという間に支配されていく。

「ほら、呼んでみせてよ」
「け、結構です………っ」
「今ならニャーって言ってあげるのに」

そ、それは凄く聞きたい……!

でもそれを鵜呑みにして、もう一度てんてんなんて呼んでしまったら、きっともっと──。

「ひゃあっ」

天くんが耳を甘噛みしたせいで、一際高い声が出てしまった。そのまま耳の形に沿って舌と唇が這う。

「ダメ、です……っそれ」 

その仕草はまるで本物の猫のよう。

「名前、こっち向いて」

極上の甘い声に逆らえるはずがない。
言われるがまま振り向けば、小悪魔な笑みに囚われ唇を深く塞がれた。

「んっ……ぁ」

一度のキスなんかじゃ逃してもらえるはずがない。何度も舌を押し込まれ、後ずさった体がデスクへとぶつかり、行き場すら無くしてしまった。
止むことのないキスと共に、するりと天くんの手が胸の膨らみへと滑りこむ。
この刺激がこのまま続くのだと知り、思わずその手を止めてしまった。

「あの……っ、このまま、ここで……?」
「嫌?」
「っ、だって……ここ、仕事場……あ、待って、っ」

だってもしもこの場で最後までしてしまったら。

「ここで作業するたび、天くんとシたこと……思い出しちゃうから……」

天くんの動きがピタリと止まる。
待ってと言ったのは自分だけど、こうも固まられてしまうと言った私も戸惑いが隠せない。

「キミのその無自覚……本当手に負えないよね」
「え?」
「それじゃあ、遠慮なく」
「ど、どうしてそうなるんですか……!?」
「だって名前のそれ、ここで抱いてって煽ってるとしか思えないでしょ」

一週間前、電話越しで言われた天くんの声がこだまする。

“朝まで気を失うくらいしようか……?”

もう二度とてんてんなんて呼んではいけないのだと心に刻みながら、私はこの部屋で天くんの熱を受け止めたのだった。





結局作業デスクの上で一度抱かれた私は、その後ももちろん解放されることはなく、今度はベッドの上で体を重ね合った。
気は失っていないし朝もまだ迎えていないのが、せめてもの救いだ。

「どう?ドキドキした?」
「それはもう十分すぎるくらいに……」

先ほどまでの私を攻め立てる天くんとは違う、いつもの優しい天くんだ。頭を撫でるその手がとても心地良くて気持ちが良い。

「ふふ。名前の方がよっぽど猫みたい」
「そうですか?」
「試しにニャーって言ってみて」
「ニャー……」
「ふーん、そう。名前はまだシたいんだ」
「はい……!?私そんなこと一言も……っ」
「今のニャーはそういう意味でしょう」
「ち、違います……!」
「じゃあ嫌なの?」
「うう……その聞き方はずるいですよ……」

もう一度重なり合う唇。
夜はまだ始まったばかり……?



[ back ]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -