先輩と後輩 | ナノ

ヴー、ヴー、ヴー。
マナーモードにしている携帯がポケットの中で振動した。
名字は教師の隙を見てポケットに手を滑らせると、チカチカと受信のランプを点灯させている携帯を開く。




form:高尾和成
件名:先輩好き好き大好き!

先輩、明日の休日あいてます?
体育館調整で部活休みだから遊びに行きたいなーって!




差出人は後輩の高尾だ。
件名はあえて触れないでおく。
つい数日前の告白事件以来、後輩との接触が随分と増えた気がする。
それ以前から割りと慕ってくれてはいたが、最近は「好き」だと言われる回数が増した。

それが「先輩」としてならいい。
が、高尾の言う「好き」はそれ以上の気持ちも含まれている気がして、どう接すればいいのか分からなくなった。
それがただの自意識過剰ならマシなのに、と思いながら携帯ボタンをポチポチと押した。




Re;ありがとう
明日は何の予定もないよ。遊びに行こっか。




本文を打ち込んでから誤字がないか確認して、送信ボタンを押す。
メールが送信されました、と表示されたのを見て携帯を再びポケットに戻した。
そして黒板に視線を戻し、ノートに文字を書いていく。
暫く経つと、またもや携帯がヴヴヴ、と振動した。

(…?)

しまった携帯を再度取り出す。
携帯をあけて受信ボックスを開くと、今度は緑間からメールがきていた。
余程授業がつまらないのか、真面目なイメージを抱いていた相手からのメールに少しばかり興味がある。
差出人である緑間のメールを押してひらいた。




form:緑間真太郎
件名:授業中にすみません。

明日の休日は空いてますか?
この間見つけた喫茶店の珈琲がおいしかったので、よかったらオレと一緒に行きませんか。





(……困った…)

つい数分前、高尾の誘いにのってしまったばかりだ。
携帯を握っている指が固まる。
どう返信すべきか迷っていると、不意に教師と目が合った気がして慌てて携帯をポケットにねじ込ませた。

少し黒板から目を離した隙に、黒板にはびっしりと白いチョークで多くの数字が書かれている。
離していたシャーペンを握ってノートに書き写す最中も、考えることは緑間の返信。
断ってもいいのだがそうすると緑間に悪い気がするし、だからといって誘いにのれば、高尾の誘いをキャンセルすることになる。

(んー………。あ、そうだ)

如何にも問題を考えていますといった風に頭をひねって、パッと自分なりの案が浮かんだ。
忘れないうちに返信しよう、と思い控えめに携帯をひらき、教師に見つからないように文章を打ち込む。



form:高尾和成
    緑間真太郎
件名:一斉送信でごめんね

明日、よかったら3人で遊びに行かない?
緑間くんのおすすめ喫茶店も行きたいし、昼休みにでも明日の予定決めようかと思うんだけど、どうかな。




「名字、この問題は解るか?」
「え、?…あっ!はい」


メールを確認する暇もなく、教師に名前を呼ばれて顔をあげた。
左手はまだポケットに突っ込んだまま。
見えないままでもとりあえずメールを送信する。

(送れたかな…?)

横目に携帯画面を見て、送信完了の画面が表示されていたことに安堵した。
それから携帯をまたポケットにしまい、教科書を持って席を立った。


(2012.11.02)

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