※劇場版その後設定



「だてまさむねぇえぇえ!!」


広い戦場の何処かから凶王の雄叫びが聞こえて、孫市はまたかと溜息を吐いた。





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「三代目、天下獲りのtag matchといかねえか?」


昔馴染みである政宗から、そう契約の話を持ち掛けられたのはひと月ほど前。

関ヶ原での動乱を聞き及ぶに、しばらくは大人しくしているかと思っていたが――――――やはりじっとしているのは性に合わないらしい。


「構わないが…どういう取り合わせだ?」


どう、とは政宗の半歩後ろで般若の如くこちらを睨んでいる男を指しての言葉だ。あれは豊臣残党の将であり、政宗を仇と狙っているらしい石田三成その人ではないか。


「別に手を組んだわけじゃねえぜ。こいつが勝手に付きまとってるだけだ」


政宗が顎をしゃくって三成を指せば、三成はぐっと眉間に皺を寄せてすかさず反論する。


「付きまとってなどいない。こやつが小蛇の無様を晒さぬか、監視しているだけだ」


剣呑な視線を飛ばし合う二人に、その時孫市は、何だか先が思いやられる心地で頭を押さえたのだった。




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三成の叫び声を頼りに現場へ駆けつけてみれば------やはり、もうすっかりお馴染みとなった光景が目に飛び込んでくる。


「だからあれほど言っただろう、一人で先走るなと!己の愚行を詫びて今すぐ頭を垂れろ!もう二度とせんと誓って殊勝に許しを請え!」

「何でオレが謝らなきゃならねえんだ!あんなのオレ一人でも十分だったんだよ!なのに余計な真似しやがって!」

「貴様…一度痛い目を見なければ分からないようだな」

「Ha!やれるもんならやってみろよ」


全く、素直じゃない。

三成は政宗の無謀な戦ぶりを案じて諌めようとしているのだろうが、口下手というかへそ曲がりというか、どうにも喧嘩腰になってしまうようだ。

対する政宗は政宗で、気が短く頭ごなしに怒られれば反抗的になる質なので、自分が悪いと分かっていても意固地になって謝れないのだろう。

こんな遣り取りを毎日飽きもせず繰り返しているなんて、呆れを通り越して感心する。三成は敬愛する主たる秀吉を討ち倒した政宗が、それに相応しい器かどうか見極める為にわざわざ自ら伊達に身を置いているという話だが――――――やっていることは政宗の“右目”と何ら変わりない。監視というより、お守だ。

政宗は政宗で、それを当たり前のように受け入れているし。この二人の間柄は、一体どうなっているのやら。

だんだん子供じみた言い争いに発展してきた辺りで、頃よく竜の右目が仲裁に――――――もとい、力技での両成敗に入り、戦場のど真ん中で二人仲良く正座して説教をくらう羽目になったのだった。




またある時は、三成ではなく政宗の怒声で始まることも。


「Hey, What took you so long!? 眩暈でも起こしたか?飯も食わねえで戦場に出るからそうなるんだ、馬鹿野郎!」

「う、るさい…耳元で、喚くな!少し、日差しに目が眩んだだけだ…」

「真っ青な顔で何言ってやがる!いいから下がれ!」

「私に指図するな!貴様こそ、傷だらけのくせに!」


声の威勢は良くても足には力が入らないようで、ふらりと傾いだ三成の痩身を政宗が慌てて抱きとめる。それを押し退け、意地でも倒れるまいと刀を支えにして立つのは、おそらく足手まといにはなりたくないからだ。


「ここは我らが引き受ける。おまえ達は一旦退け」


見かねて助け船を出せば、三成は不本意そうにこちらを睨んだが、政宗は素直に礼を言って半ば引きずるように三成を連れて行った。


「Thank you, 三代目!ここは任せた!」

「離せ!退却などっ…!」

「Shut up!お荷物は黙って守られてろ!」


ぎゃあぎゃあと憎まれ口の応酬が遠ざかってゆくのを聞きながら、孫市の口元には不思議と笑みが浮かんだ。

互いのことをよく見ていなければ、そんな危機にも気付くまい。

互いのことを大切に思っていなければ、そこまで怒りはしまい。

初めて目にした時は頭痛を覚えたものの、そうやって中身を知ってしまえば可愛いものだった。どこでどうなってそうなったのか、そんなものは知る由もないが。あの二人は、特別相性が悪いというわけではない。似た者同士だから、互いに寄せる感情があるから、ぶつかることが多いだけで。


「…からす共め」


だけどそんな愚かしさは嫌いじゃないと、二つの背が消えた方へ向けて、孫市は穏やかに目を細めた。





愛しきかな、烏の囀り


(不器用な術しか持たぬ、その未熟な想いの行方を)

(籠の外から見守る騒がしい日常も、悪くはない気がするのだ)












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壱様のサイトが5000hit時のアンケートに「ケンカップルな三政が見たい」と図々しくもコメントしたところ、快く応えて下さりましたぁああぁああありがとうございます!

もうもう素敵すぎて過呼吸です…!
相手のこと気にしてるけど素直になれず喧嘩腰な2人とか、美味しいです!

壱様が書かれる孫市姐さんはクールで大人で包容力あってマジ好きです結婚して下さい!むしろ壱様と結婚したいです!←



本当に忙しい中、私の我が儘を聞いて下さりありがとうございます!
これからも頑張って下さい!