※三♀政現パロで、二人は長年付き合ってるカップル設定。
『車を見に行くぞ』
通話口の向こうから聞こえた三成の言葉に、政宗は思わず、はあ?と間の抜けた返事をした。
「何で車?今日は映画観に行くって、前から約束―――――」
『映画は後だ。とにかく、迎えに行くから待っていろ』
一方的に予定を決めつけて、切れた通話。こいつが思いつきで脈絡の無いことを言い出すのは良くあることだが、政宗が楽しみにしている映画を後回しにしてまで自分の都合を優先させるなんて珍しい。
妙だなあとは思ったけれど、あまり細かいことを気にしない性格なので、すぐに気持ちを切り替えてクローゼットの扉を開けた。
ガラス張りの広いショールームに並ぶ、大きさもデザインも様々な車。街中を走るそれとはまた違う、初々しさのようなものを感じるピカピカの車体と新品特有の匂いは、意外と嫌いじゃない。
三成が自家用車でアパートの駐車場に現れた時、予定変更の理由はすぐに分かった。素人目にも何だかもう限界だなあと感じるほど、ガタガタと不穏な音を立てながらやって来たのだから。
まだ乗れるから大丈夫、それを続けて5年も経つという彼のマイカーは、元々が中古車だったせいもあってかなりガタがきていた。通勤くらいにしか使わないとはいえ、毎日乗っていればそれなりに走行距離も伸びていて、いまや10万kmに届こうかというところ。車なんて走ればそれでいいという三成でも、さすがに買い替え時だと判断したらしい。
で、思い立ったが吉日、即行動に移るのがこの男。
可愛い彼女との約束を後回しにして――――――それどころか何の関係もない彼女も巻き込んで ―――――こうして販売店へ足を運んだわけだ。
エコカーだのハイブリッドカーだの、運転免許を持っておらず車とは縁遠い生活を送っている政宗には何がどう違うのかさっぱり分からない。とりあえず見た目重視であれは?これは?と提案してみるも、三成は一向に首を縦に振らないし。
「なー、走れば何でもいいんだろ?だったら一番安いやつでいいんじゃないの?」
「いや、そういうわけにも…」
何でも割と即断即決な三成にしては珍しい。何を迷っているのか、歯切れの悪い返事をするばかりだ。
「…もう、オレあっちで待ってるから」
最初は目新しい車の数々が新鮮だったけれど、いい加減飽きてきて備え付けのレストルームのソファへ腰を下ろした。今頃は映画も見終わって、一度入ってみようと思っていたお洒落なカフェでランチして、そろそろ三成の誕生日だし欲しがってた時計を買いに行こうとか、そんなデートプランを政宗なりに考えていたのに。この調子ではいつまでかかるか分からない。
付き合いたての頃は何でも政宗の望み通りにしてくれて、お前は執事かってほど尽くしてくれて、二人の時間はいつだって政宗中心で回っていたのに。これも倦怠期ってやつかなあ。今じゃオレをほったらかしでお買い物とは。別にそんなお姫様みたいな扱いをしてほしいわけじゃないけど、もうちょっとこう、さ。
「決めたぞ、あれにする」
たっぷり30分待って、ようやっとそう言った三成が指したのは、あろうことか3列シートのミニバンだった。
光沢のある真っ黒なボディにシルバーのフロントグリルがなかなかクールで、インテリアも悪くない。車なんて走ればそれでいいなんて言ってたくせに、ちょっと大きくて格好いいやつ見たらこれだもんな。男ってやつは、本当にしょうがない。
「Ah−…良い車だと思うけど、でも冷静になってよく考えろ。独身なのに、あんな大きな車どうするんだ?」
何度でも言うが、三成は今まで車になんて全く興味がなく、通勤以外でドライブを楽しんだりする趣味もないから、適当に選んだ中古車をさほどメンテナンスもせず鞭打ってとりあえず走らせていたような奴だ。それがどうしてまた、今までの倍以上は確実に維持費の掛かる車を買おうとしているのか、さっぱり理解できない。はっきり言って馬鹿げている。
そりゃあ三成が自分で稼いだ金で買うものだから、好きにさせてやればいいのかもしれない。だけど明らかに無駄と分かっている買い物をむざむざ見過ごすなんて、世話焼き体質の政宗にはできなかった。
「今までみたいな軽じゃダメなのか?どうせ通勤にしか使わないだろ?」
考え直せと詰め寄る政宗に少したじろいだが、しかし三成は突如がしりと政宗の両肩を掴むと、今までにないくらい真剣な表情で政宗を見つめる。思わずどきりとしてしまうほど、それはもう真っ直ぐな眼で。
「政宗、聞いてくれ」
「な、何だよ…」
「どうせ新車を買うなら、私一人だけの物より、家族みんなで乗れるものを買いたい」
「家族って、アンタ一人暮らしじゃ」
「いいから黙って聞け。今は私とお前の二人でも、いつか子供ができて、家族が増えて…そうなった時に小さな車では不便だろう?だから、あれだ」
「…それって、」
頭の中で、処理しきれなかった三成の台詞がぐるぐると渦を巻いて目が廻りそうだ。家族って、子供って、つまり三成が言いたいのは。
「私と、結婚してくれ」
きっとその一言を絞り出した瞬間に、張りつめていた緊張がピークに達したのだろう。色の白い肌はみるみるうちに赤く染まり、肩を掴む指は力加減を忘れたように痛いくらい食い込んでいる。それでも眼は決して逸らさずに、瞬きもなくじっと政宗を捉えて。それを見上げる政宗の顔もまた、眼を丸く見開いたまま同じように真っ赤だった。
「…はい」
たった二文字。それだけを口にするのがやっとで、恥ずかしいやら嬉しいやらでもうまともに三成の顔を見ていられず、その胸に飛び込むようにして顔を押し付けた。
ぎゅうと抱き締められる温かい感触と、ショールームに響く拍手の音。
その場にいた従業員や客に一部始終を見られていたことに今更気が付いて、慌てて体を離そうとする政宗を、三成は離すどころかますます強く抱き寄せる。
「…結婚したら、倹約していくからな。こんな贅沢な買い物、これっきりだぞ」
照れ隠しにわざとむくれてそう言うと、三成は素直にそうだな、と頷いた。
返品不可の契約なので、ご了承ください
(お前との人生以上に贅沢なものなんて無いと、気障な殺し文句に)
(ならば一生をかけて精々大事にしろと、幸せを滲ませて笑った)
――――― 5000hitフリー小説とのことで頂きましたぁああぁああ!
うぁああぁああなんだこの和ましい雰囲気はッッ!読んでて思わずにやけてました。良かった!一人で!
はやくこの2人は結婚しろと思っていたので、もう本当に、ぁああぁああ←
壱様5000hitおめでとうございます!これからも運営頑張って下さい(^ω^) フリー小説ありがとうございました!
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