空には鉛色が広がっており、雲が地上へと水を降り注ぐ。こんな天気の中、庭では遊べないので梵天丸達は三成の自室にいた。梵天丸は家康が読んでくれた書物を自分でもう一回読んでみたり、三成からもらった紙に、筆を滑らせ何か書いていた



そんな微笑ましい光景を見守っている三成と家康なのだが、いつもニコニコと笑っているはずの家康が何やら困ったような、考えているような難しい顔をしていた
隣にいる三成も愛刀を抱え、必死に何かを書いている梵天丸を穴があくほど見つめては眉間に皺を寄せていた







「…なぁ、三成」

「…なんだ」

「お前はどう思う?」

「…どーもこーも、頭がごちゃごちゃだ。何も思いつかん」

「…ワシもだ。一体…梵天丸は…」






何者なんだ?と言おうとしたが、その言葉は飲み込んだ。だが、隣にいる三成は家康が言いたいことを理解したのか、小さく「知らん。」と呟いた




そう、2人は梵天丸が普通の人間の子では無いことをついさっき知った。





――あれは、1刻ほど前の出来事だ。最近は雨が降らず、晴れが何日も続いたせいで農作物が育たないと家康は農民から相談された。

雨乞いの儀式を何度か行ったが、曇ることも無く全くと言っていいほど効果がなかった。家康がどうにか出来ないかと三成に相談すれば、答えは「知らん」と三成らしい答えが返ってきた


そう言えば、三成はそう言う奴だったなァと困ったように笑っていると、クイっと服を引っ張られた。視線を下にやると梵天丸が家康の顔をじっと見ていた。遊びたいのかな?と思った家康は、軽々と梵天丸を抱き上げ、どうしたんだー?とデレデレとしながら聞けば







「梵が、あめをふらす!」




と言い切った。これには家康も三成も目が点になった。豆鉄砲をくらった鳩のような顔をしていた家康だが、気を取り戻して「アハハハ!」と豪快に笑い、梵天丸の頭をワシャワシャと撫で回した







「そうかそうか!梵天丸が雨を降らしてくれるのか、それは有り難い!」

「むー…いえやす、しんじてないー!」

「そんな事はないぞ。ちゃんと信じているぞー?」

「おい梵天丸。そんなに暴れてると落ちるだろう」







三成がドタバタと家康の腕の中で暴れている梵天丸にそう注意すれば、「むー…」と膨れっ面をして大人しくなった。ちなみに暴れてた際に、梵天丸は無意識の内に家康の顔をポコスカと叩いていた。大して力は無いので叩かれても痛くは無いが、集中的に顔を叩かれてしまえば、いくら力が無くとも叩かれた部分は痛い。

その証拠に家康は少し赤くなったおでこを空いている手でさすって、「いててて…」と小さく呟いていた








「梵できる!あめ、ぜったいにふらすー!」






そう言って、ヒョイと家康の腕から抜けた。その際に家康はちょっと寂しそうな顔をしていた。イラッときた三成は今すぐ家康の顔面にペッと唾を吐き捨てたい衝動に駆られたが、梵天丸がいるのでなんとか耐えた。「ふたりともみてて!ぜったいにふらすから!」






やる気満々の梵天丸を見て、「おー」と家康は返事をした。子供のちょっとした洒落事。それに付き合うのが大人である自分達の役目だ、と思ったので2人は敢えて何も言わず梵天丸を見守っていた。



家康の返事を聞いた梵天丸は、俯いて黙り込み始めた。2人は頭に?を浮かべながら梵天丸をじっと見ていた。次の瞬間、2人は目をギョッと見開き驚いた



梵天丸の周りに出て来た青い靄のようなものが梵天丸を包み込み、目が金色に光り出し、挙げ句の果てには頭から2つの角のようなものが生え出していた。その姿はまるで龍のようだ…と2人は思った

そして、スッと両手を空にかざし、「ふれ」と小さく呟けば、今まで雲一つ無かった空が急に曇り出し、空が鉛色に染まったかと思うとポツ…と水の雫が一滴落ちた。それを合図に空から次々と水が降ってきた。




「ほらほら!」と大喜びしている梵天丸をよそに、三成と家康は目を点にさせていた。…いや、するしか無かった。ただの子供の洒落事だと思っていたと言うのに、梵天丸は本当に雨を降らした。偶然とは言いにくい。何より、梵天丸のあの姿………2人は雨が激しく降る中、大喜びしている梵天丸をじっと見ていた。














「ワシが思うに…梵天丸は龍の子ではないだろうか…」

「龍の子だと…?」

「あぁ。三成、お前も見たろう?梵天丸のあの姿を…」






確かに見た。雨を降らす前の梵天丸の姿……あれは普通の人の姿ではない。家康が言ってたように、あれは…そう…龍の子のようだった…。




「…梵天丸は、竜神…なのか…?」

「うーん…かもしれんな。だが、ワシは梵天丸が竜神だろうと何だろうと関係ないぞ!これからも、梵天丸と共に過ごす
三成もそうだろう?」

「…ふん、くだらない質問をするな。答えは決まっている」

「うむ、そうだな!
…あとこの事は誰にも言わない方が良いだろう。もちろん秀吉公や半兵衛殿にもだ」

「秀吉様と半兵衛様が信用ならんと言いたいのか…貴様ァ!」





ブチっと堪忍袋の緒が切れた三成は家康を倒し、斬首をお見舞いさせようと鞘から刀を少し出し始めた。家康は流石に焦り、三成にどうにか待ったをかけた


まったく三成は秀吉公や半兵衛殿のことになると怒りの沸点が低くなるから、困ったもんだなぁ






「わぁああ、違う違う!もしも話した時に、どっかの忍びに聞かれてしまっては困るだろう?」

「秀吉様の築き上げた城の警備が甘いと言いたいのかァアア!」

「違う違うぅうう!信用していない訳ではない!だが、もしもなんて事もある!念には念だ三成!
それに、これは梵天丸のためでもある!」







そう言えば三成は動きを止めた。鞘からはもう半分も刀身が出ていた。家康は良かった…と思い、息を吐いた。あと少しで斬首されるところだった…







「もし、他国に梵天丸の事が広まってしまっては梵天丸を狙う者が出てくる。それは即ち、梵天丸の身が危ないと言うことだ。それを少しでも避けたいから、梵天丸のことはワシと三成だけの内緒ごとにしよう。な、三成?」






三成は少し考え、チラッと梵天丸に目をやり、「わかった」と言って刀を鞘にしまい、座ってくれた。家康もふぅ…と言って体を起こし、座り直した







「…だが、いつまでも隠し通せる訳ではない。もし、他国に知られたら梵天丸を全力で守るぞ」






家康は三成の言った言葉に大変驚いた。秀吉公と半兵衛殿以外の者など、眼中に無いと言っても他言ではない三成が…あの2人以外に守るべき者を見つけた。これは近くにいた家康から見たら、大きな変化である。
考えてみれば、梵天丸が来てから変化が多い気がする。

例えば、三成の雰囲気が少し丸くなったり、前では考えられないが今では家康と三成が梵天丸を通じて一緒に遊んでたり、城内の雰囲気も穏やかな感じもするし…とりあえず、色々と変わっている




家康は嬉しくて、フッと微笑み、「そうだな。」と言って、梵天丸を見つめた。三成も梵天丸を見つめては微笑んだ












変化の日々


(かけたー!)
(何を書いたんだ?)
(みつなりといえやすとぼん!)
(おぉ、うまいな!な、三成!)
(あぁ。だが、私の前髪はこんなに尖ってない)
(そうかぁ?三成の前髪こんなもんだぞー?)
(黙れェエ家康ぅうう)
(おいかけっこー!)









―――――
…もう何も言わぬ!
とりあえず、2人は梵天丸の正体に気付き始めます。やっとかよ、とか言わないでぇええ
よく分からない文にお付き合いして下さり、ありがとうございます!

お粗末様です!







20110817

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