桜吹雪
「‥‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥‥望美?」
突然行方不明になった親友と、その幼馴染みの兄弟。
本当に心配していた(少し脱線したけれど)私の携帯に、彼女用に設定した着歌が鳴り響いたのは約一週間後の朝だった。
第一声で怒り口調になったのは仕方ないと思う。
心配したのとホッとしたのと‥‥泣きそうになったのだから。
そんな私に
『桜子、あのね、ちゃんと説明するから!私もすっごく会いたいんだよ!』
と切羽詰った声の望美に呼び出されたのは正午過ぎ。
何故か望美の家じゃなく、有川兄弟の住む豪邸だった。
私自身、不思議な前世からの縁‥‥を話したい。
一目会う前から愛していたこの恋の話を聞いて欲しい。
別に余計な幼馴染み兄弟が居ても構わないから。
そんな気持ちから望美との通話後、彼に電話して。
「どうしたの?望美も‥‥有川くんまで」
そして、同伴者を連れて訪れた玄関先での、今の沈黙。
インターホンの音に勢い良く出てきた親友は、私の名前を叫んで、『会いたかったっ!!』と抱きつく勢いで‥‥‥しかしぴたりと立ち止まった。
後ろからついてきた有川くんとその弟も同様。
「‥‥の、望美ってばどうしたのよ‥?」
「桜子、貴女が変わってしまって戸惑っているんじゃないですか?」
ひと時も離れたくないような、そんな気を持たせる声の主に、振り返る。
‥私?
いや、むしろ望美達の視線は、背後の『彼』に向けられている気もするけれど。
「そうなの?ねぇ、短期間で私変わった?」
「‥‥さぁ?昔なら兎も角、以前の桜子を知りませんから」
「今朝も鏡は見たけど、別に違和感持たなかったんだけど。‥‥‥あ、もしかして」
「なんです?」
「貴方を連れてきたからびっくりしてるのかも」
「あぁ、成る程」
望美の居ない間に彼氏が出来た。
少し薄情な気もするけれど、これには深い訳がある。
彼は、私の運命の人。
‥‥‥と、説明する前からこんなに呆然とされてはどうすればいいのか。
それとも望美は彼に見惚れているのだろうか。
それは困る。
望美とは張り合いたくないもの。
いや、それだと‥‥‥有川兄弟も彼に一目惚れ?
そんな馬鹿な。
など、考えていた私を余所に、
「うそ‥‥惟盛‥」
「「はっ!?」」
望美の呟きに、私と彼の声が見事に重なった。
「‥‥望美、何でその名前知ってるの‥?」
「ええっ!!惟盛なの!?本当に!!」
「まさか本当に惟盛さんなんですか!?」
「マジかよ!惟盛!?信じられねぇっ!」
‥‥‥何なのこの三人は。
まさか、まさかとは思うけど‥
「貴方達、何故名前を知っているんです?まさか‥‥‥」
「望美?有川くん?そして名前は知らないけど弟君、まさか‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥譲です」
「私のストーカーですか?」
「彼のストーカーなの?」
「そうじゃないだろ!」
この時の有川将臣のツッコミは関西人も吃驚するレベルだった、と後に皆は語る。
「望美さん?何かあったんですか?」
「望美?麗しの客人が見えたんじゃないのかい?」
とか玄関から赤髪やら金髪やら‥‥彼にも勝るとも劣らない美形軍団が姿を見せて。
また面白いほど一様に驚き固まる。
その姿は、私にある確信をもたらした。
‥‥ああ、彼らを何処かで見たことがある、と。
「桜子」
愛しい彼も同様だったのだろう。
私の肩をそっと引き寄せ‥‥見上げる私と眼が合うと、悪戯気に眼を和ませた。
「やはり縁は繋がっているのですね」
「私達は出逢う為に生まれたのね。そう証明されたみたい」
「出逢う為ではなく、私が貴女を幸せにする為に生まれたのですよ」
「‥‥‥‥‥私も、貴方を幸せにしたいの」
「幸せですよ。桜子に出逢えたのですから」
もう冷たくはない。血の通った、暖かく力強い腕。
隔たる事のない距離が愛しい。
───私の恋は、生まれるずっとずっと前から
ただ一人のものだった───
ねぇ、望美。
長い話を始めよう。
貴女と、その仲間達と。
互いの辻褄を合わせるような、長い長い‥‥‥不思議な運命のお話を。
桜吹雪の綺麗な午後のこと。
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