幼き少年

 



『まぁ‥‥‥なんてお美しい』


『本当に、光の君のよう‥‥‥』


『眼を伏せてらして。まだお若いのになんて綺麗なのかしら』

『元服なさって、ますます光輝くようになられましたわ』

『惟盛様‥‥‥』








(煩い‥)







惟盛は眼を伏せながら、うんざりしている。

心底嫌で仕方ないのだが、御廉越しに聞こえるのはうっとりとした溜め息ばかり。







父、重盛に連れられて宴に出るといつもこうだ。



広縁から覗かせる、艶やかで華やかな袖の数々。

着飾った袖を御廉の裾から出して、殿方に存在を訴えるのが『雅びやか』とされているのだが。



薫き染められた香が、御廉の端近に押し寄せた女房の数だけ混じり合っている。
それらの匂いは汗や白粉と混じって、繊細な惟盛は吐き気を催しそうになる。



‥‥‥雅と言うよりは、いっそ醜悪だと惟盛は思う。







「お前もそろそろ十四。俺がそれ位の頃は女の一人や二人位知ってたぜ?」



前を歩く重盛が、御廉に手を振りながら惟盛に言う。

途端に「きゃぁっ!!」と、黄色い声の大合唱が聞こえて、煩くて耳を塞ぎたくなるのをじっと堪えた。



こんなものが女だと言うのならば、いっそ不要。



「お前も元服して大人の仲間入りしたんだから、女を知らねぇとな」


「父上。私には女性の美しさを、理解出来そうにありません」




女房達の姿を見るに絶えず、
つい、と御廉から眼を逸らす。




反対側には咲き初めの桜。


月明りに映し出されたそれは、楚々たる美を醸し出す。

惟盛はゆるりと眼を細めた。











花が咲き染め、散りゆく一瞬の美を

一夜毎に姿を変える艶やかな月の姿を



美しきもの を、



愛でていくこと。






―――それが、彼の夢。


惟盛の、みるゆめ。









‥‥‥十三歳、惟盛は女性に倦んでいた。




 



表紙 

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -