夢恋舞 (3/3)
「随分と前から用意して下さっていたの?」
この様な舞台が一日二日で出来上がるべくもない。
恐らく、扇を見つけたのは随分前なのだろう。
極秘に準備してくれたのだ。
「‥‥‥貴女の願いを叶えるのも、夫としての義務だと思ったからです」
本当に素直でない言葉。
「ありがとう」
桜子の胸が、熱くなる。
見てくれている。
いつも、微かに過ぎる感情すら。
この人は‥‥‥この、優しく繊細な人は感じ取ってくれる。
「惟盛殿、愛しています」
「‥‥‥‥‥‥」
「え?」
‥‥‥肝心な言葉が聞こえなくて問う。
一足先に、真新しい木の香漂う舞台の段に足を掛け、惟盛は振り向いた。
「‥‥‥私も同じだ、と言ったのです」
それは煌めく愛の言葉。
「ほ、他の方が待ち兼ねているでしょう?早く上がりなさい」
「‥‥‥はい」
惟盛が手を取る。
美麗な眼差しが捉えるのは、愛しい姫の至上の笑顔。
「ほう‥‥‥見事なものだな、時子」
「ええ。一幅の絵巻物のよう‥‥‥」
星月夜と松明の眩しい夜。
鼓を打つのは銀の髪の優しい重衡。
経正の指が楽しげに弦を弾けば、敦盛の笛が高く空に通る。
思い思いに座す中で、今一人の銀髪の青年が心地よさげに寝転んでいた。
夜空に浮かぶ月の花
惟盛と桜子を優しく照らす。
くるりと袖を翻し
軽やかな足捌き
ひらひらと、極彩色の扇が光を生み出す。
愛し背の君との初舞は、一つに溶け合う様に心地よかった。
二人でひとつの、桜の精になれた気がする程に。
夢恋舞
〜ゆめれんぶ〜
夢の様な刻を忘れる事はないだろう。
ずっとずっと‥‥‥
千年の時が経とうとも。
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