桜の下

 






それからすぐ迎えた土曜日。


少しでも手掛かりを探そうと、繰り出したのは源氏山公園。

幼馴染みの有川兄弟とよく散歩に出掛けている、と聞いたのはそう前でもなかった。

望美の母親を訊ねれば、思い当たる節がないが有川兄弟と一緒なら、まだ‥‥‥と不安そうな表情。
それを見れば、桜子は行動せずに居られなかった。






何度頭を捻ろうとも、忽然と消えた理由に思い当たらない。
直前に交わした会話といえば、日直と‥。




「夢の話?‥‥まさか、ね」




不思議な夢はあれから一度も見ない。

平安時代にも似て、けれど非常識な設定だったあの夢。
その住人に、望美達が似ているとしても、気の所為でしかないというのに。



シンボルである家康公の銅像を目指し、歩く。

その途中、街路に立つ桜の木を眺めて顔を綻ばせた。
春になれば満開となるだろう。

桜の傍は安心する。



「早く咲くといいね」



何気なく呟いた時だった。






‥‥ひらり、舞い落ちる。

白い花片が、桜子の手に。

跳んできた方向に目を向け固まった。





「‥‥‥え?」





街路から奥に入った雑木林の方で、白い花を咲かせる一本のが眼に飛び込んだ。

薄寒さが似ているとは言えど、今は早冬。
春ではないのに。



惹かれるまま桜子の足は動き、木の正面でぴたりと止まった。





誰もいない空間が神聖で、懐かしい。
初めに思ったのはそんなことだった。


さわさわとそよぐ風。
枝が嬉しそうに騒いでいる気がする。

そして、肩や頭に、沢山降り落ちるは花片。
それは紛れもなく、桜子の一番好きな花だった。






「‥‥桜が、何で‥?」

「貴女の所為ではないのですか?」

「‥‥‥はぁ?何言ってるの?頭おかしく‥‥‥え?」




ゆっくりと振り返れば、ぼんやりとした視界に見慣れぬ長身が入ってくる。


見慣れない、筈なのに──。





「嘘‥‥」





考えるより先に涙が溢れた。





 












 



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