光の底に宿しもの
初恋
悲しみ
二人で交わした玉鉾の道
触れた熱
涙
別離
離れた歳月
慟哭
激情
狂気
‥‥そして、咲き初めの花
空に、解き放たれる瞬間に願うはきっと
愛しき君の全て。
「うわぁぁぁあっ!!」
全身を苛む浄化の洗礼に苦痛の叫びを上げた。
しかし、すぐにそれは優しく全身を包む。
既に惟盛の手足は、端から光に溶けてゆく。
その感覚は嫌でない。
寧ろ安堵感を覚えた。
‥ああ、解放されるのだ。
「惟盛殿‥っ」
涙混じりの声に、閉じていた瞼を押し上げる。
視界を埋める涙。
こちらに伸ばしてきた手は、触れる事無く惟盛を通過した。
「‥‥っ!?」
愕然とする彼女に、せめて泣くなと言ってやりたい。
が、消えかけた魂のみになりつつある惟盛には、言葉を発する事が叶わないだろう。
‥‥不思議だ。
光に奪われたかの様に、今、全てが霧散してゆく。
憎しみ、妄執、苛立ち、怒り、羨望、嫉妬‥‥‥
全て癒されて、願うことは一つだけ。
滂沱の涙を流しながら必死に見詰めて来る愛しき花に、惟盛は笑った。
‥‥ずっと貴女を、愛していた
「‥‥っ!嫌っ‥」
桜子の前で光が霧散した。
「嫌っ‥嫌です!惟盛殿っ!!」
最後にえも云えぬ優しい微笑と、声にならぬ声を残して‥‥‥惟盛を包んで。
「嫌!置いて行かないで!!」
殺戮者でも怨霊でも、良かった。
気が触れていようとも、別の女を愛していても。
それでもいい。覚悟の上で、彼の魂還を望んだのは桜子なのだから。
惟盛が、桜子の全て。
彼をこれ程に求めた自分は、とうに狂っている。
血に塗れる惟盛と、それを密かに容認する桜子は、同じ狂気。
その事実すら絆に思えて嬉しい。
傍に居られずとも
愛されずとも
惟盛が、生きていればいいと‥‥‥。
寄り添える日が、来なくても。
けれど。
桜子の願いは虚しく、彼は消えた。
人生を捧げるに等しき言葉を最後に贈って‥‥跡形もなく。
「桜子!」
まるで糸の切れた操り人形。
力を失い座り込んだ桜子を、後ろから力強い腕が支えた。
桜子だけに聞こえる、低い声が息と共に耳に掛かる。
「‥‥すまねぇ。あいつを止められなかった‥!!」
苦しげな響き。
将臣殿の所為ではない、そう首を振る事で精一杯だった。
「将臣くんっ!ねぇ」
「望美。話は後だ」
背後では八葉だか神子だか騒いでいる。
桜子を抱いたまま振り向いた将臣に、一瞬だけ
‥‥。
隙が出来た。
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