面影と別人







‥‥‥朝、身体が少し火照っている。

少しだけ

この熱を吐き出す術が分からない。









「‥‥では、将臣殿は、私達とは違う場所で生きていたのですか?」

「ああ。さすが飲み込みが早いな」



『有川将臣』と名乗る青年が桜子の室を訪れたのは数日の後。




瑠璃の姿はない。
噂の還内府の姿を見かけた瑠璃は驚愕に度を失してしまい、見かねた桜子が房に下がらせたから。




御簾越しに垣間見る容貌は見れば見るほど若かりし義父の姿なのに、違う。

義父はこの青年より、更に豪快だった。


息子の妻だと言えど気軽に口説いては、惟盛の柳眉を顰めさせていた。

言葉の戯れに、桜子が笑いを漏らす。

そんな義父娘であったのに。



「ええ。よく分かります。貴方とお義父様とは違うと‥‥‥ですから、惟盛殿がお怒りなのですね」

「‥‥みたいだな。ま、あいつにとっちゃ俺が父親の名前を使ってる時点で許せねぇんだろ」

「貴方はなぜお義父様の名を継いだのですか?己の私欲の為、にはどうしても見受けられなくて」



桜子が問う。


胡坐に肘を付いていた青年の雰囲気が、突然変わった。




「‥‥‥清盛と平家には恩があるからな」




籠められたのは
一言で言い表せないほどの、深い、深い情。




「だから、安心しろ。どんな運命が来ても、俺が平家を滅ぼさせねぇ」

「それは、」

「守ってやるから心配すんな」










伊豆で挙兵した源頼朝の元には続々と家人が増えているらしい。
源氏の一族や義朝に仕えていた家人達。

『‥‥たかが東国の田舎侍が群れを成した所で、何を恐れているのです?』

などと、惟盛は小馬鹿にしていた。






けれど忘れてしまったのか。




最愛の彼の命を奪ったのは










源 氏










「‥‥‥将臣殿。私は、あの方を奪った彼らを‥‥‥源氏の彼らを、許せないのです」







心中に渦巻き、蝕んでいくこの熱の

苦しさを、愛しさを、憎しみを、恋を、


唯一人にどうしようもなく捕われた、心を







‥‥‥吐き出す術が、見つからない。











「‥‥‥‥それが戦だ、と言ってしまえばそれまでなんだ」



苦しそうに語る将臣の姿を、視界から霞ませるものは涙か。




「だから俺が終わらせる。平家もあんたも、惟盛も守ってやるから」






力強い声。

分かっていてもなお、義父が重なった。















遠退く意識。

垣間に聞こえたのは、何故か。


忘れられぬ‥‥‥愛の言葉。










『‥‥‥貴女が健やかに生きられる為にならば仕方なく私も戦う、とお祖父様に申し上げたのです』







‥‥‥惟盛殿。




 



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