恋ふ恋ふと







星月夜は貴方を思う


明月夜も 新月の夜も

光も 闇も 風も


‥‥‥そして、残酷な程に美しいこの世界の全て


全てが、貴方目指して指差している。





貴方無しには生きられなかった。
けれど、常に影から見張られたこの部屋で、自らの命を棄てる事は許されず。


貴方の側に居られるなら、桜子と言う名の魂のみで良い。


そう思いながら幾度か振り上げた懐剣。

寸前で止まるのは、『見張り』の所為などではない。







‥‥‥‥‥‥たったひとつ残された、希望。














文を届けた三日後、桜子は瑠璃と共に呼び出された。



「‥‥よくぞ参った、桜子。ここには一族しかおらぬ。固くならずとも良いぞ」



少年の姿になられたかの君と対面するのは、初めてのこと。
怨霊として還ってから、清盛は多忙を極めているらしいから。



「お義祖父様、お久し振りにございます」

「うむ。暫く見ぬ間に随分と美しくなったの。あやつが人前に出したがらぬのも当然」

「その様な戯言など‥‥‥」

「戯言ではないが‥‥のぅ?経正」

「ええ。桜子殿に出会われてから、惟盛殿は随分とお変わりになられた」



‥‥‥その名を耳にするだけで、胸が張り裂けそうになる。
俯いた桜子に再び清盛が呼び掛けた。






「‥‥‥桜子。そなたも又、願うのか?」




平家一門の秘術、反魂を





「はい」





愛した唯一人の反魂を





「桜子様?何の事でございます?」



何も知らぬ瑠璃が不安そうに背後から問う。

瑠璃には、目の前に鎮座する清盛が何故、少年姿なのかも‥‥‥分からぬだろう。



「後でゆっくり話してあげるわ、瑠璃」



だから、黙って‥‥‥。



思いつつ、眼を上げる。

上座の清盛の右隣に座す経正と視線が合った。



‥‥‥哀しみを湛えこちらを向く、彼と。




「‥‥‥桜子殿、我々は‥‥‥全てを抱えたまま反魂するとは限りません」

「我々‥?」



ならば彼もまた、怨霊なのか。



「怨霊は歪んだ存在。現世から離れた魂を再び肉体に注ぎ込むのです。何処かに必ず、歪みが生まれる‥‥‥」




例えば、清盛の姿が変わった様に。



「‥‥‥貴女の望む惟盛殿ではないかも知れません。それでも良いと‥?」

「構いません」




言い切れば、更に深い哀しみを浮かべて桜子を見つめる。




「経正。何を下らぬ事を言うておる?‥‥‥何も心配するでないぞ、桜子。そなたの願い、この清盛が叶えてやろう」












退室した桜子達の許に、再び清盛付きの女房が訪ったのは

‥‥‥更に三日後の事だった。



 




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