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『そなたの強情さは誰に似たものか‥‥‥』




‥‥‥お父様の溜め息が苦しくとも。



『‥‥貴女は姫なのですよ。母は貴女の幸せこそを祈っておりましたのに‥‥‥』



お母様の涙に心掻き乱されても。




『‥‥‥お父様、お母様。絢子は誓います。お二方の子に恥じぬ様に強くあると』




私は、負けない。
十二単を纏えば指先を上げる仕種すら、たおやかに映える。



お母様が差し延べられた手を両手で押し抱き、頬擦りした。




『貴女がしかるべき公達に嫁ぎ、子を産み、殿方に愛しまれる‥‥‥女としての幸せを見出してほしいと、母は今も願うております』



『時子、それ以上は言うでない。絢子の意志はさながら激流の如し。誰にも止められぬ‥‥‥そう申したのは、そなたであろう?』



『ええ、ですが‥‥‥!!』





ごめんなさい。




私は今日、姫で在る事を‥‥‥捨てる。















『へぇ、馬子にも衣装ってやつか?悪くねぇな』



『重盛お兄様のお姿も悪くありませんわね』



『その言い方止めろっつったろ?』



『ふふっ。では還内府殿。此度は宜しくお願い申上げます』



『‥‥‥‥ああ。ったく、お前らの性格はそっくりだな』




毒気を抜かれたらしい、重盛お兄様にそっくりな将臣殿を擦り抜けて、目指す人の姿を探した。




‥‥‥銀の髪が、涼しげな陽光を受け止め輝く。





そちらに足を向ければ、その場にいた全員がこちらを向いた。




『‥‥おや、絢子ではありませんか?よく似合っておりますね。流石は栄華を誇る平家の姫』




‥‥‥女性の様に優雅で美しい、年上の甥の言葉に罪悪感を感じた。






『惟盛殿は相変わらずですね‥‥‥私は反対しておりました。何も戦など』


『経正殿、私はもう決めたのです‥‥‥ごめんなさい』








ごめんなさい。

経正殿を通して真に謝りたい人物に届く様に。



この場にいない、優しくも内気な『彼』にこそ謝らねばならないのに。



『‥‥‥‥‥‥いいえ』



経正殿の小さな笑みが私を促す様に、ある方向を指示す。






更に奥に立つのは二対の紫玉。


良く似た面差しの敬愛するお兄様達が、同時に手を差し出してくれた。




『クッ‥‥‥怖いのか?』


『‥‥‥いいえ。絢子は怖くありませんわ』



静かに返せば満足そうに唇の端を持ち上げる知盛お兄様。




『絢子。貴女の背は私が守りましょう‥‥‥何があろうとも』




強い眼差しの重衡お兄様。




私は二人の手を取った。




『‥‥‥お手並み拝見、といった所か』


『ふふっ。知盛お兄様の出る幕など、私が無くして差し上げます』


『‥‥‥クッ』


『絢子、兄上を煽らないで下さい。後が大変なのですから‥‥‥将臣殿が』


『おーい、重衡。俺に振るな?』


『貴方の様な下賤の者には後始末がお似合いです』


『惟盛殿、落ち着いて‥‥‥』








青い空に映える、桜がひとひら。









『では、出陣致しましょう。
‥‥‥私の愛しいお転婆姫』










貴方の側に居る為ならば



私は、戦の中に生きる。










 
桜、ひとひら

六話、それでも、まだ君を想う






  
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