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『一年後‥‥‥ですか』


『はい、そう伺いました』




絞り出した声が、震えている。



声だけでなく、全身が。







まさかお兄様に

こんな事を言わねばならぬ日が来るなんて。






『絢子、私は‥‥‥』


『‥‥‥‥‥‥いいえ』








お兄様の唇に指を当てて、首を振る。









‥‥‥しっかりしなくては。


私よりも、重衡お兄様が困った顔をなさっているじゃない。









『お兄様、絢子はもう決めました。一年後、誰の元にも行かぬ道を』


『‥‥‥それを私が許す訳などありませんと、申し上げた筈でしょう?』


『‥‥‥ええ、でも』





すっかり困り切った‥‥‥いいえ、眼に静かな怒りを宿して私を見ている。




この決心がお兄様の意に染まぬ事など、承知の上。





『絢子を失えば、私はどうすれば良いのですか』


『‥‥‥‥‥‥』






私を掻き抱くお兄様の‥‥‥貴方の熱が、決意を鈍らせようとするけれど。







『ご存知ありません?私は意外と向いているらしいの』


『‥‥‥‥‥‥兄上が、そう仰って?』


『ええ、知盛お兄様が』








力が込められる。

息が苦しいほど。








『‥‥‥私の預かり知れぬ所で、兄上と会っていたのですか?‥‥‥‥‥絢子』


『ごめんなさい、けれど‥‥‥』







貴方の側にいる為なら



どんな道でも恐ろしくない。









そう告げるとお兄様は呆れた様に笑った。






『‥‥‥父上には何と?』


『これからですわ』


『‥‥‥‥‥‥』






絶句したお兄様。




勝利感を噛み締めて笑ったのは、束の間。





唇は柔らかなくちづけで塞がれる。









『敵いませんね。流石は私の可愛い姫』


『‥‥‥認めて下さるの?』





嬉しさに抱き返せば、お兄様は私の頭を強く胸にと押し付けた。






『‥‥‥愛しております、絢子。私の生涯を貴女に捧げましょう』


『私の全ても、お兄様に』









いつでも、貴方の隣を

歩いていたい。

















桜、ひとひら

五話、祈ることしかできなくて






 

  
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