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『‥‥憂い顔のお嬢さん‥‥‥何を、している?』


『‥‥‥‥‥‥と、ももり、お兄様』



ああ、どうしてお兄様達は。

私を一人で泣かせてはくれないの。



『絢子‥‥‥?』


『何でも‥‥‥何でもないの、お兄様』



零れる涙を見られたくなくて、すっかり冷たくなった膝の間に顔を埋めた。

重ねた単衣が水を吸って色を変える。





頭上でクッ、とお兄様が喉を鳴らす。


そして背中を引き寄せられ、浮遊感。





『我らが姫は、余程涙を隠すのが‥‥‥苦手と見える』





間近に紫の眼。










ああ、こんなにも同じで

こんなにも違う









『‥‥‥俺に重ねて見るのは、よせ』



一言。





誰と重ねて、と問うつもりが

唇は圧迫されて開けない

知盛お兄様の香りに、唇に、包まれて‥‥‥







『んっ‥‥‥』





薄い唇が冷たくて、背が震えた。




『―――兄上!!』




草木を踏み分ける音と同時に、もう一人のお兄様の声が聞こえる。





『‥ククッ、相変わらず‥‥‥こいつの事になると、素早い』




そう言うとお兄様は私を庭に下ろした。





一体何だったのか。



言葉を探している内に、その背中は遠ざかって行く。




そして背後から、愛しい腕が私を包んだ。







『‥‥‥兄上の様になれたら‥‥‥そう、今ほど願った事はありません』


『重衡お兄様』









耳元の声が、愛する声が

余りにも狂おしくて、苦しそうで



また涙が零れた。












知盛お兄様とは同じで、そして違う、ただ一対の眼。



見惚れる程に愛おしい。













そっと瞼を閉じれば、優しく触れる唇の柔らかさに

幸福と切なさが身を焦がした。













『絢子は、貴方以外のものになりたくないのに‥‥‥』





答えはない。


けれど、一層強くなった腕が‥‥‥貴方の想い。
















この恋が禁忌の実だというのならば



いっそ、甘受して墜ちたい










桜、ひとひら

四話、閉じ込めた輝き




 

  
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