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陽射しが容赦なく照り付ける葉月の、午さがりのこと。
「銀?絢子と一緒じゃなかったのか?」
早朝から、里野にて兵達との鍛錬に勤め、高館に帰ってきた重衡を迎えたのは、そんな一言だった。
「いえ、一緒には来ておりませんが‥‥‥絢子がどうかしましたか?」
「あー‥‥まぁ、なんだ。朝から見かけてねぇし、お前と一緒なのかと思ってな」
『重衡』だった頃の記憶を全て取り戻した銀髪の青年は、目の前の青年には幾分気を許している。
自分が絢子の傍に居られなかった時、彼ともう一人の少年には随分と彼女の支えになってくれたという恩があるから。
尤も、感じるのは恩義だけではなく嫉妬も混じっているのだが。
「‥‥‥‥将臣殿。目覚めたときには室に居りましたが」
「そりゃそうだろ?朝からあいつが居なきゃお前が大騒ぎするに決まってるからな」
お前らは同じ部屋で寝起きしてんだろうが。
呆れた溜め息混じりの声を出し、では彼女は何処に行ったのか、と将臣は考える。
だがそれも、束の間。
当の重衡が、通称と同色の髪を揺らしてくすくすと笑い出したから。
「‥‥‥ふふっ、冗談です。絢子の居所を私が知らぬ訳がないでしょう」
「は?何言ってんだお前」
「外で待ち合わせ、と約束しておりましたから」
「‥‥‥お前な、急に訳わかんねぇ事言うの止めろっつったろ」
唐突の話題変換に付いていけない将臣。
平家の一門だった頃の彼を取り戻してから、言葉遣いも以前のものとなった重衡は、性格まで明るさを取り戻したようだ。
「私と絢子は、将臣殿の世界で仰る『でぇと』の約束をしているので、失礼致します」
からかわれたのか何なのか。微妙な眼で睨む将臣の苦言は放って置いて、重衡は踵を返した。
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