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『‥‥‥どうか、‥‥くださ、い‥』

『‥‥銀っ!‥‥やめて、銀ぇっ!!』

『愛し‥います‥‥‥これだけが、真実です‥‥』


『い‥‥‥いやぁぁぁぁっ!!』



愛することを教えてくれたのは、【彼】なのに。















 



「敦盛」



困った様に名を呼ぶ声が、敦盛を我に返らせた。

絢子を抱き上げ立ち止まったまま視線を向ける。
こちらを真っ直ぐに見つめる彼女が愛しかった。



「絢子」

「敦盛。貴方が私を守ってくれるの」

「‥‥‥ああ」



先に死してしまい、蘇った後は自らも拒絶した絢子の手。




あの時のことを恨める筈もないのだ。

あの婚約を拒んだのは何も絢子だけではない。
穢れた手で触れることを何より怯えた自分。
けれど、絢子が幼き頃からの想いを遂げる為に旅立った時、気づいてしまったのだ。



「貴方をずっと、守ってみせる。私の全ては絢子のものだ」



誓いの言葉を受けると絢子は目を閉じた。


瞼が微かに震える。
‥‥‥まるで、何か‥‥喩えようのない大きな覚悟を迫られているかのように。


抱えているものの重さに耐えるかのように。



「‥‥ありがとう」



絢子はきゅっと笑みを浮かべ再び瞼を開けた。

もう、先程までの弱さを感じない紫の双眸。



「今の私が軍師でない事を、感謝するなんて皮肉な話なのだけれど」



鈴を転がす小さな絢子の笑い声。

ずっと、敦盛何よりも憧れていたものは今、確かに自分だけのものだった。
なのに次の言葉が自分の意思に添えないものだともう、知っている。



「‥‥私は軍師ではないもの。だから、貴方の心を利用するなど考えなくて済むわ」

「絢子は、貴方はそんな人ではない」

「いいえ。私はもう、綺麗な人間ではないの」



敦盛の断言を聞き、自嘲めいた微笑を湛え首を振る。



そう、もしかしたら。

あの頃の彼女ならば敦盛の想いをあやふやに繋ぎ止め、それを盾に傀儡としたのかもしれない。



「それに私も同じことを誓ったの‥‥‥あの方に」

「‥‥‥そうか」









ひらり

初雪が舞い降りた。






 



























「何もお力添えになれなくて‥‥申し訳ありません、望美さん、皆様」

「とんでもない!絢子さんが元気になってくれたことの方がずっと嬉しいです!それに、呪詛の種は取り除けたから‥‥」



此処に来て無理が祟ったのだろう。
中尊寺に出かけた翌日から、絢子は高熱に倒れていた。

数日間は夢と現にうなされていた事。

深く詫びると望美は大きくかぶりを振った。



「まぁ。それでは三箇所あったという怪異は‥‥」

「君の予想通り、三箇所とも呪詛が原因でした。呪詛の種と呼ばれる小さな石を、誰かが撒いたようですね」

「弁慶殿。お気遣いを有り難く思いますけれど、怪異と呪詛を結びつける事など、皆様の胸中にも浮かんだことでしょう?勿論、貴方にも」



言外に、くだらない気を使うな、と述べると弁慶がにやりと笑う。



その前で望美と源氏の大将だった男が決まり悪げに足を組み直すのを視界に入れ、絢子は驚いた。

‥‥‥結びつかぬ者も居たのかと。


 

 
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