(1/2)
 



「‥‥え〜と、僭越ながら私、梶原景時が乾杯の音頭を取りたいと思います!そもそもオレと九郎の馴れ初めは‥‥」

「野郎同士の馴れ初めなんて虫唾が走るね」

「そんな事言わずに最後まで聞いてよ〜ヒノエく〜ん」


一斉に笑い声が起こる中、奥間に設えられた誕生日席に座らせられている九郎はまだ憮然としていた。

隣で始まった長ったらしい祝辞に呆れつつ、視線は一点に向けられる。




喧嘩したまますっかり謝る機会を逃してしまった恋人は、九郎と眼も合わさずに敦盛や望美と話し込んでいた。



互いに意地っ張りだから、謝るまで時間が掛かってしまう。
喧嘩をするのはいつもの事。









誕生日特別編2008:最も古い魔法
















「ゆきちゃ〜ん!立っちゃだめ!ほらまた座って!」

「ちょっ、望美ちゃん!?いたたた!痛いって!」

「そんなに強く腕を引くとゆきが壊れるわ、望美。ゆきも飲みなさい」

「ええっ?朔?本当に朔のセリフ?」

「あはは〜、朔も酔ってるんだね〜」

「ふふっ。兄上もね」




宴が始まって、かなり経った頃。




けらけら意味も無く笑いながら、朔と景時がにこやかに尺を酌み交わしている。
そんな非常に珍しい光景にゆきは固まった。

‥‥‥朔が景時に対して、小言を発していないなんて貴重だと思う。


引っ張られた腕をさすりながら、ゆきはまた湯呑みに口を付けた。




「さぁ、ゆきさんも飲みましょう。今日は月見の宴ですから」



一人、譲が絞ってくれた果汁を口にしながらぼーっとしていたゆきの前に、杯。
見れば、望美とは反対側の隣にいた弁慶だった。



「あれ?月見の宴じゃなくて、兄上の誕生日」

「何か言いましたか?」

「だから、兄上の 「ほら飲んで」




わざとだ。
わざと聞いていないフリをしている。



皆まで言わせて貰えず、口に押し付けられる杯。
咄嗟に口を閉ざしたけど。
それでも少し染みて、苦い味がした。



「ぶっ」

「おや、飲まないんですか?僕の酒が飲めないとでも?」

「‥‥‥」




‥‥眼が据わっている。



完全にいつもの弁慶じゃない。
少なくとも普段の弁慶なら、ゆきに「だけは」飲ませようとしないのに。




「もう!弁慶さん酔ってるでしょ?」

「ええ、酔っていますよ‥‥‥君に」












ダメだこりゃ。

何を言っても通じない。













ゆきは大きく溜め息を吐いた。



(‥‥‥あれ、兄上?)



視線をめぐらせると、さっきまでヒノエと譲に囲まれていた九郎の姿がなかった。



(どこ、行ったんだろ?)



気になりつつも仲直りのチャンスとか思った。

追いかける為、勢いよく立ち上がろうと、して。



「ゆきさん、何処へ行くんですか?」

「ぎゃぁっ」



視界がぐるんと回って、ドサっと音がした。
その感触に酔いそうになってぎゅっと眼を瞑った、けれど。



(‥‥ん?寝転んでる感じ?)



「‥‥‥えええっ!?」



びっくりして眼を開ければ、更に驚いた。

至近距離で瞳を揺らす、それは綺麗な顔立ち。

これは所謂、
押し倒されているとか
押し倒されているとか
押し倒されているとか

もう、押し倒されているとしか言えない状況。



「酔ってるでしょ!?果てしなく酔っているでしょ!?」

「何を言っているんですか?僕は素面ですよ?」

「だったら退いて下さいっ!!」




からかうにも程がある。


顔は真っ赤。
手足をじたばた暴れさせながら、ゆきは助けを求めようと視線を巡らせる。


けれど皆すっかり出来上がっていて、こんな危機的状況には気付いてくれそうになかった。



(‥助けて!兄上!)



ふわっと、頬に掛かる金茶の髪。
くすぐったさに泣きそうになった。





「‥‥大人しくしてください。これでも意地っ張りな大将への、誕生日祝いなんですから」





耳元に掛かる吐息交じりの小さな声が、熱い‥‥‥‥。

否、酒臭い。



「それってどういう‥‥」



意味ですか?

そう訊ねようとした時だった。




 

  
戻る
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -