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「待って‥‥!ね、待ってってってば!」

「‥‥‥‥‥‥」



速足で歩く。
自分は男で、歩幅も大きい。
だから後ろをついて来るゆきは、小走りと言うよりもむしろ走っていた。



「待ってよ、兄上っ‥!」



背後で息を切らしながら自分を呼ぶゆきを、可愛く思わない訳が無い。



義妹として見てきて、いつの間にか愛しい唯一人になっていた。




普段なら、振り返って抱き締めているだろう。



‥‥‥だけど、今は‥‥。






並んで揺れて




 
 


‥‥‥苛々は治まりそうにない。





「兄上っ!ねえってば!話を聞いて!」

「しつこいぞ!昨夜の言い訳を聞く気はない!!」

「言い訳っ‥?」



邸を出てからと言うもの、ゆきが追いかけて来るのを無視し、すたすたと歩き続けた。





振り返る訳にはいかない。

今振り返っては、この怒りを当の原因‥‥‥ゆき自身にぶつけてしまう。




そこまで考えて、はた、と思考が止まった。




‥‥‥‥‥‥いや、待て。



「何故、俺が逃げなければならないんだ‥‥‥」



速度を落とすことはなく、九郎はぽつりと自問を投げ掛ける。



そもそもの原因はゆきではないのか?

そうだ。間違いなく、ゆきにある。








怒りのせいで昨日はなかなか眠れなかった。

今朝も、彼女にどう話を切り出せばいいか考え込んだ位だ。


朝稽古中も、どうしたものかと考えて考え過ぎて‥‥‥


『九郎、集中が足りない』

『‥‥はい』


とリズヴァーンに指摘された程だったのだ。



それから、鎌倉の兄から書状が届く筈だからと、気を引き締め梶原家を出たのが朝食後すぐ。


いつもは眠い眼を擦って箸を動かすゆきなのに。

今日は、朝食を終えても姿を見せなかった。




‥‥‥それもその筈だ。


昨日の夜、ゆきは‥‥‥





「‥‥‥‥っ!!」




思い出すだけでぎり、と歯を食いしばった。



沸き出るのは、怒り。






何とか堪えたのに、次に脳裏に浮かんだ光景は先刻の京邸前でのもの。



『あ、兄上!お帰りなさい!』



六条堀川から帰ってきた自分に、弾む足音。

無邪気に出迎えたゆきの笑顔が、怒りに輪を掛けた。



『‥‥‥っ』

『‥兄上?』

『煩い』



眼が合った瞬間に、くるりと踵を返した。



『え?え?‥‥‥ま、待って。どうかしたの?』




縋りつく腕を振り払う。
尚も追いかけて来るゆきを撒こうとすれば、追いすがる速い足音がする。



‥‥‥こうして奇妙な『追い掛けっこ』は、今に至っても尚繰り広げられていた。




 
 

  
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