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『兄上!クリスマスって知ってる?』

『栗済ます?何を済ますんだ?』

『ちっがーう!外人の偉い人が生まれた日なんだよ』

その「がいじん」と言うのが生まれた事がどうしたんだ?
何を祝うんだ?
俺達と何か関係あるものなのか?

質問した俺に、ゆきは譲に聞けと言う。


『その日は空けといてねーっ!!』


そして、顔を赤らめて走って行った。

何だったんだ、あいつは‥‥‥。


仕方ない。
あいつの言う通り、俺は譲に尋ねた。



『俺の世界では、その日は家族や友人、それか恋人同士で過ごす風習のようなものがあるんですよ。恋人と過ごす一夜、という行事だと思っている人も多いかも知れませんね』

『こ、恋人と過ごす‥‥‥一夜』


落ち着け。

あのゆきの事だ。
きっと無意識だろう。

一緒にいようね、とただそれだけで深い意味などない筈だ。



‥‥‥だが。
もう限界なんて超えている。








お前が欲しいんだ。

お前自身も


‥‥‥共に進む未来も、全て。








聖夜:夢を見ない夜








「兄上!見て見て!!雪!」

「ああ、雪だな。だが、ここ最近降り続けているんだ。珍しい事もないだろう」

「‥‥‥今日は違うのに」


若干呆れた顔で振り返ったゆき。
訝しげに首を傾げる九郎に気付き破顔した。

うっかりしていた。自分のいた世界の風習など、九郎が知る訳ないのに。


「そうだった。ホワイトクリスマスって言ってね、この日に雪が降ると‥‥‥」

「雪が降ると?なんだ?」

「う、ううん!何でもない!!」



慌てて両手を眼前で振り、身を翻すとゆきは草履を履いて庭に降り立つ。

跳ねる兎の様に元気よく走る。
九郎の頬は心なし緩んだ。


「また転ぶぞ!」

「そんなにいつも転ばないってば!」


返る声に、溢れる程の弾む気持ち。

ここは六条堀川にある、普段は九郎や源氏の将兵が詰める邸。
戦が近いと殺伐とした空気が漂うこの邸も、今日は静かだった。



庭で積もる雪と戯れるゆきと、背後から近付く九郎の足音。

それだけが、世界の全てのように。




「‥‥‥雪うさぎか。懐かしいな」

「覚えてくれていたんだ」


ゆきは背後を見上げて、心底嬉しそうに笑う。
目線を合わせるべく九郎もしゃがめば、ほんのり桜色に染まる頬。


「去年の今頃は、こうなるって思ってもみなかったね」

「そうだな‥‥‥」





あの頃はまだ、仲の良い「兄妹」だった。
周りが呆れる程に一緒にいても、それは恋ではなく。




「‥‥‥だが思えば、あの頃から俺はお前だけを見ていた」

「えっ‥‥‥と‥‥‥‥私、も‥‥‥」

「そ、そうか」



静かな空間に、赤面した二人。

深々と降る雪の微かな冷気が、逆に心に火を点した。


「冷えてきたな。中に入ろう」

「うん」





前からずっとそうしてきたように、当たり前に手を繋ぐ。


想いを重ねる前と違うのは、

指先を絡めている事。




僅かでも隙間を埋められるようにと。



   

  
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