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「あ!いたいた!あっつもっりく〜〜ん!!」




屋根上で雲の流れ行くのを見ていた敦盛の耳に、元気一杯な声。


(もうそんな時刻なのか)


「ゆき」


返事をして、屋根から飛び降りる。



そんな彼に走り寄り、今日の出来事を話すのがゆきの日課だ。



「有川くんが、蜂蜜プリンが出来たって!!」


「あ、ああ。あの・・・ゆき、すまないが離れて欲しい‥‥」


「嫌です」



彼女が話をする時は、いつも敦盛の手を握る。


振りほどくのは簡単だが、途端に悲しそうな顔になるゆきを前に、何も出来なくなる。



怨霊だから、とかそんな理由なのだが、そんな事はお構いなしの行為に正直な所、困っているけど。

敦盛は小さく息をついて今日も諦めた。



笑顔のゆきに引かれるまま、邸の中へと入って行く。

これが敦盛の日常。














「・・・・・・ゆきが?」

「そうなんですよ。朝からぼーっとしてるとは思ったんだけど・・・」


望美の言葉に敦盛は驚いた。

ゆきが高熱で倒れたらしい。




何故だろう、落ち着かない。




屋根上にいても

空を見ても



ゆきの笑顔ばかりが脳裏をよぎる。



‥‥‥どうするべきか。

暫く悩んだ敦盛は溜め息と共に立ち上がった。














「‥‥‥ゆき」


部屋の外で声をかけた。


「‥‥‥あつ、もりくん‥‥‥?どうぞ」



聞こえてきたゆきの声は小さくてか弱くて、いつもの元気がない。

敦盛の胸が激しく痛んだ。


失礼する、と一言。襖を開ける。



枕元に座ればゆきの紅く色付く頬。


「お見舞い、来てくれたんだ‥‥‥?」


潤んだ眼差しに、息を飲む。


「‥‥‥あ、ああ‥‥‥」

「‥‥‥ありがとう‥」


ふわり、と微笑むゆきを見て、




このぎゅっとなる感情を理解した。




(いつの間にか、こんなにも‥‥‥想っているとは、思わなかった)





「‥‥‥‥‥手を‥‥」


「ゆき?」


「‥‥繋いでも、いいかなあ?」


「‥‥‥‥あっ、ああ」



差し出された敦盛の手にゆきのそれを重ねる。


「‥‥‥やっぱり、安心する‥‥」


きゅっと握り締めて、ふふっと笑ったゆき。


「‥‥‥いつだって敦盛くんの手は、安心するよ」


(安心する、か‥‥‥)


いつだって、元気をくれる彼女。


自分の手が安心させられるのなら、いくらでも繋いでいたい。




「そうか。私もゆきと手を繋ぐと‥‥‥安心する」



そうして浮かべた彼の表情は、ゆきの心に決定的な想いを植え付けた。



ぎこちなく微笑んだ日




あまりにも嬉しくて、ゆきは思わず抱き付く。

(わ、私に触れては・・・っ!!)

(可愛いっ)





ぎこちなく微笑んだ日

Title : 恋したくなるお題



 


   
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