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梶原邸の庭に一本だけ、

大きな大きな松の木。


一本だけ、他の植木よりもぐんと高くて





‥‥‥これからやって来るイベントに、ぴったりだなって思った。














「あ、アレ?この邸が建つよりず〜っと昔から生えてるらしいよ〜」



景時さんに聞けば、あの年を感じさせない可愛い笑顔で、笑いながら教えてくれた。



「そっかあ。やっぱりこの木が一番いいよね。アレに変身出来るかな‥‥‥」



へぇー、と感心して年寄りの木を見上げていた。

もうすぐやって来る日を楽しみにしながら。




「変身?‥‥‥ああ、アレのことかな?何ならオレがやってあげるよ〜」

「‥‥え?でも大変だよ」

「ははっ。可愛いゆきちゃんの為ならオレ、張り切っちゃうからね〜!」



って、明るい声が降る。





そして、肩にポンと降った熱。
景時さんの大きな手。
ついでに何だか抱き寄せられたみたいな気がするけど、気のせいだよね。





大好きな彼とは違う、熱い手のひら。
それは血が通っている証。
‥‥人間の、証。




「ええっ?可愛いのは白龍とか望美ちゃんで私はっ‥‥‥‥」











‥‥‥あれ?













たった今、へらっとした笑い声の隣を見上げたら、誰もいなかった。




「‥‥‥?」




いつの間に景時さん、居なくなったんだろう。



おかしいな。

中途半端な話だけ残して消えるなんて。

そういやさっき、滝の様な音がしたような‥‥?

いやいや、一瞬だけそんな気がしただけだし。
気のせいよね。





「でも可愛い、かあ‥‥‥えへへ」



そりゃあ最愛の彼氏とラブラブですから。

愛されてると女の子は綺麗になる。って昔読んだ雑誌にあったし。





なんて頭の中で惚気てみたらちょっと恥ずかしくて、一人で照れた。




‥‥‥‥‥‥頬が、熱い。
















ぽつんと突っ立って、時間ばっかり過ぎていたらしい。

気がつけば松の木の下で、頬を押さえたまま。



ぐるぐる浮かぶのは、

敦盛くんの笑顔とか

敦盛くんの優しい眼差しとか

敦盛くんの低い声とか

敦盛くんが名前を呼ぶ前の一瞬の間に込められた気持ちに気付いた時の事とか

好きだ、って言ってくれる時の真剣な眼とか






‥‥‥触れてくれる手は冷たいのに、どんなぬくもりよりも私を安心させてくれることとか






他のことは全部色褪せて、ひたすら敦盛くんのことばかり。



想いはどんどん加速して、比例して頬が赤くなった。



好きで、好きで‥‥‥大好きで

こんなに好きで大丈夫なのかなって思うくらい。





「ゆき」

「‥‥‥あ、敦盛くん!」




当の敦盛くんの声が聞こえたのは、丁度その時。


ドキンと胸が鳴って、でも嬉しくて。


振り返る時には勝手に笑顔が浮かんでいた。



「‥‥‥‥‥‥」




対する敦盛くんは、そんな私を見て顔を顰める。



「敦盛くん‥‥?」

「‥‥‥」

「‥ね、敦盛くん」

「‥‥‥」




怖い顔。

強める眼の光。


そのまま歩いて来て、私の腕を掴んだ。



「景時殿に、惹かれたのか‥‥?」

「‥‥‥‥‥へ?」

「頬が、赤いのだが」

「‥‥‥えっ?‥‥‥あ、これ?」

「景時殿に触れられたから、なのだろうか‥‥‥」

「違うよ!これねっ‥‥‥‥わっ」




敦盛くんのせいだよ




と続けるつもりが、出来なかった。




背に回る腕。
頬に押し当てられる、硬い胸。

ぎゅっと抱き締められた力の前に。












「渡さない‥‥‥!!」

「あ、つもり‥‥くん」

「‥‥‥景時殿にも、誰にも渡さない」









‥‥‥どうしよう。



他愛ないヤキモチ妬いてくれる彼が、愛しい。


愛しくて、仕方ない。





「‥‥‥すまない。景時殿がゆきに触れた時、自分が判らなくなった」

「敦盛くん‥‥‥」



切なそうに揺れる眼に、こっちまで切なくなる。




「ゆきを独り占めしたいと、欲ばかりで‥‥‥」

「‥‥‥うん」








「いっそ、閉じ込めてしまいたい」


‥‥‥ゆきの前に、私だけが居られたら。









「敦盛くんっ」



紛れもない本音に涙が出た。





そっと胸を押せば、敦盛くんは少しだけ離れる。

‥‥‥もっと密着していたい。


そう寂しがる反面、見つめ合う綺麗な菫色に映るのが私だと確認出来て、嬉しかった。





「今の敦盛くん‥‥‥‥格好良い‥‥‥」

「‥‥‥ゆき?」

「格好良過ぎてどうしようっ!?」



敦盛くんは目を真ん丸にしていたけど、
凛々しい姿に参ってしまった私には、何もかもがキラキラして見える。



「‥‥‥敦盛くんとこうしていられる私は幸せだね」

「‥‥っ!い、いや‥‥‥幸せなのは、私の方だからっ‥‥‥」



「敦盛くんっ‥‥‥!好き。敦盛くんより素敵な人なんていないよ」

「ゆきっ‥‥!!」




恋の言葉を聞いて、敦盛くんは柔らかく微笑いながら名前を呼んでくれる。

再びぎゅうっと抱き締めてくれながら。






そんな敦盛くんに、もう一度ときめいた。










海の暁〜deep green〜
『世界之中心』















「‥‥‥なぁ、いい加減気付かねぇか?あいつ」

「ふふっ、恋は盲目ですからね」

「姫君には敦盛しか見えてないんだろ?‥‥‥まぁそれも今だけ、ってね」

「だけどよ、幾ら何でもさっきのは分かんだろ?‥‥‥っておい、大丈夫か?景時」

「う〜‥‥ん‥‥‥」

「また派手に流されましたね、景時さん」

「仕方ないわ。二人共、お互いの事しか見えてないもの」

「神子、あれが『ばかっぷる』?」

「白龍、どこでそんな言葉‥‥‥って、将臣くんが教えたんだね」

「全く兄さんは‥‥‥‥‥‥‥しかし今回も見事な四海流撃でしたね」

「‥‥‥だよね、譲くん。
前々から思ってたんだけどさー。すっかり私ナシで術使えてるよね、敦盛さんって。
‥‥‥神子も廃業か‥」





((拗ねてる!?))








終わり

20081120


 

   
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