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‥‥‥見られた。
咄嗟にそう思ったのは、僅かばかりの罪悪感から。
「ち、違うの!敦盛くん聞いて!!」
ちゃんと説明したかった。
なのに
‥‥‥何にも言わずに向けられた少し華奢な、でも綺麗な背中。
あの菫色の眼がふわっと和らぐ瞬間が大好きで。
ゆきを愛しそうに見つめる、優しい彼が大好きで‥‥‥
だから、逸らされた事が哀しかった。
じわりと、涙が滲んでくる。
「敦盛くん‥‥‥」
海の暁〜purple〜
祝☆生誕
ぱたぱたと元気な足音が聞こえて来た。
‥‥‥あの走り方は彼女だ、とすぐに気付く。
此処は梶原兄妹の京邸。
その庭で譲の手伝いにと、彼が丹精込めた野菜を収穫していた。
「ゆき」
「あ‥‥‥敦盛くん‥」
声を掛けると、足を止める。
何故か彼女の笑顔が引きつって見えた。
いつもならここで満面の笑顔で抱き着いて来るのに。
あの陽だまりを抱き締める、その瞬間が敦盛の幸せなのに。
‥‥‥おかしい、気がする。
「‥‥‥何かあったのか?」
「‥‥‥っなな、何でもないよ〜っ!やだな敦盛くんっ」
「‥‥‥‥‥‥」
嘘を隠すのが致命的に下手なゆきだから、こんな時に口籠ってしまう。
敦盛は密かに眉を顰めた。
「あ〜っ!そうそう、朔に呼ばれてたんだった!!また後でね!」
「ああ」
さっきよりも走る速度を上げて、ゆきの背中が離れて行く。
一昨日位から、ゆきの様子がおかしかった。
眼が合うと慌てて逸らす。
敦盛の側があんなに好きだと言っていたのに、少し距離を空けてきて。
気付かぬ間に何か、嫌われる事をしたのだろうか?
‥‥‥それとも、自分の他に好きな男でも出来たのだろうか。
「‥‥‥‥‥‥っ」
手に持つ鎌の柄が、みしりと音を立てて折れた。
一度望美に封印して貰って、蘇った時に決めていたのに。
ゆきが自分以外の誰かを好きになったら‥‥‥
潔く諦めようと。
人の想いに永遠は無い事を覚悟しているから。
成長を続けるゆきが、時を止めた敦盛よりも他の男を好きになる日がくるかも知れない。
そんな日が来れば、自分は今度こそ龍脈に還ろうと‥‥‥思っていた。
彼女の幸せの為なら。
「‥‥‥だが、私が思っていたよりずっと‥‥‥」
ゆきに執着しているらしい。
話をしたい。
その一心で探した、愛しい栗色の髪の少女。
見つけたと同時、足元が崩れる感覚を覚えた。
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