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「こうしてここで、二人で星を眺めるようになって結構経つね」

「ああ‥‥‥」



満天の星夜。

京邸の屋根の上。


敦盛が笛を奏でる手を止めた時、隣で軽やかな声がした。


いつもは、笛の音を聴きながら眠りに付くゆきだが。
今日は睡魔が訪れないように見える。


「‥‥‥‥‥‥」

「?どうしたの?」

「いや‥‥‥」



まじまじと顔を見つめる敦盛にゆきは首を傾げると、敦盛は静かに眼を伏せた。







ここで、この溢れる程の星の明かりの下で

ゆきは負けない程に輝いて‥‥‥










敦盛の前で煌めく小さな星の花。

こんな自分を想ってくれる、奇跡。








暖かいもので満たされていく。





「ゆきが側にいてくれて、良かった」

「‥‥‥本当にどうしたの?変だよ、敦盛くん」

「あ、いや‥‥‥」







どう伝えればいいのだろう。

この想いを上手く表現出来ない自分がもどかしい。







「ね、敦盛くん‥‥‥はい」

「‥‥‥?」

「膝枕!!今日は敦盛くんが寝ていいよ」




ゆきはにこやかに笑いながら、足を伸ばして座り直しぽんぽんと膝を叩く。


いつも私が寝ちゃってるから今日は敦盛くんね、と更に笑みを深めた。






「‥‥‥だが私が寝たとして、一体どうやって降りるのだろうか‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥あ」




いつもは眠るゆきを抱き抱えて屋根から飛び降り、寝具に運ぶのだが。


流石にこの少女に同じ事が出来る訳がないと、敦盛は思う。




真顔で聞いた敦盛に、顔を赤らめた目の前の少女は握り拳をつくり、高らかに上げた。



「大丈夫!!気合いで降ろしてあげるから!!」

「いや、気合いではどうにもならないと、思うのだが」

「‥‥‥だって」






‥‥‥しゅん、と項垂れるゆきに眼を細める。

愛しい、と言葉にしても足りない程の愛しさが胸の内を熱くする。





ゆきは再び顔を上げると、ぱぁっと花が開くように笑った。


「じゃあ、一緒に布団で寝よう!!」

「‥‥‥‥‥‥‥そっそれはっ‥‥‥!!」

「そうしたら降ろさずに済むし、朝までいられるでしょ?」



(いや、そう言う問題では‥‥‥)


敦盛は軽い頭痛を覚えた。

ゆきに、自分は男として見て貰ってないのだろうかと悩む。

‥‥‥あまりにも無防備過ぎるのではなかろうか。




「いや、いい。私は、ゆきが私の膝で眠ってくれる方がいい」

「‥‥‥そうなの?」

「ああ。ゆきの寝顔を、眺めていられるから‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥敦盛くん」




本当は余程の眠気が来ていたのだろう。

敦盛の名を呟いたと思ったら、肩に凭れかかり‥‥‥もう、寝息を立てていた。






ずり落ちないように頭を膝上に移動して、敦盛は笛を吹く。


自分の奏でる音色が優しく彼女を包み込むように、と。







「私はいつでもおっけーなのにな」



ゆきの呟きは、笛を吹き続ける敦盛の耳に届かない程に小さなものだったけど。

いつかこの気持ちが届く日が来ると信じて、ゆきは今度こそ睡魔に身を任せた。










星の広がる、小さな夜のことだった。










終わり

 

   
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