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「‥‥‥私が、里帰りを‥?」


恋人であるゆきが、用事で出掛けた午後のこと。




海の暁 〜silver〜
『里帰恋慕』










広縁で猫に餌をあげていた敦盛は、望美に呼ばれた。
何かあったのか、と問う彼に、望美は一言。



「里帰りしてはどうですか?」

「‥‥‥里帰り?」

「そうですよ敦盛さん!たまには経正さん達にも元気な姿も見せてあげて下さい!」

「しかし神子‥‥‥」

「‥‥ああ、その間のゆきさんの事でしたら、僕達に任せていただけませんか?」

「オレがいるんだ。姫君を退屈させないぜ?」


敦盛の背後から声がする。

華やかな笑顔を浮かべる弁慶とヒノエ。
二人を見る敦盛の眼に、ふっと醒めた色が浮かぶ。

この二人が一番厄介だから、ゆきを置いては行けない、と言うのに。


「いや、遠慮する」


そんな敦盛の表情を読み取ったのか、そうだ!と望美が手を叩いた。



「じゃぁ、ゆきちゃんも連れて行けばいいじゃないですか!」

「‥‥‥ゆきも?」

「はい!二人っきりで旅行気分も味わえるし」

「‥‥二人っきり?‥‥‥‥〜〜っ!!」



敦盛の頬に熱が集中した。















「わあっ!見て見てっ!!雲がおにぎりみたい!」

「ゆき、あまり動くと落ちるから‥‥‥」

「はぁいっ!‥‥‥‥‥‥敦盛くん、乗馬出来るんだね。知らなかった」

「‥‥私とて武士の子。幼き頃から馬には馴染んでいる」

「‥‥‥カッコいいな‥‥あっ」


「‥‥‥‥っ!!そうか‥‥」


思わず本音を漏らし、顔を赤らめるゆき。

釣られて敦盛の頬も、茹で蛸の様に赤くなる。



横向きに座るゆきは、落ちぬ様に手綱を握る敦盛の着物を、しっかりと掴んでいるのだが。



「ゆき。落馬してはいけないから‥‥‥」

「‥‥‥うん」


敦盛の意図を理解して、真っ赤な顔でぎゅっと抱き付いてくるゆき。

愛しくて、可愛くて。

彼女が胸に凭れかかる。
思い切り抱き締めたくなる衝動をぐっと堪えて、敦盛は前を見た。


「ゆき」

「なに?敦盛くん」

「平家に着いたら、私の側から離れないでくれ」

「‥‥‥‥‥‥え?」

「あそこはある意味、魔物の巣窟だから」



正面を向いたまま、ふっと 眼を細めた敦盛。
一瞬、見惚れてしまったゆきは、次に言葉の意味を考える。


この最強な恋人が『魔物の巣窟』と呼ぶからには、相当な強さを誇る怨霊が蠢いているのかも知れない。


「‥‥‥うん。敦盛くんから離れない」


少し怯えた表情を浮かべてぎゅっとしがみつくゆきを見て、一人ごちる。


彼女は可愛いから、きっと狙われる‥‥‥‥‥‥。


惚気だと分かっているのかいないのか。
敦盛はあくまでも本気で思っていた。


ちなみに、敦盛の脳裏に浮かんだ魔物とは、銀髪だったり銀髪だったり、する。


(私がゆきを守らねば‥‥‥)


固く心に誓った。



 

 
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