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切り取られた星が夜空に戻る事はないように
それは未来永劫と附随する闇
廻り巡る運命を持ってしても
救いなどない
深い深い、混沌
「お願い‥‥‥っ!!」
切羽詰まった哀しくも、痛切な想い。
それらが混じった声は、青い空に高く響いた。
海の暁〜E〜
『遠夢深淵』
神無月も末。
遠く見える山だけでなく、野や里や京の町が白く薄化粧を始めた、ある朝。
寒さなど感じていないのか。
屋根上に座り雲を眺めていた少年は、弾む足音に顔を上げた。
何処か近寄り難い雰囲気を醸し出していたが、それは一瞬にして柔らかく綻ぶ。
「敦盛くんっ!おはよう!!」
「‥‥‥ゆき」
今日も二人の朝は熱い。
部屋を出たゆきは、最初に庭に降りる。
全身に元気の源を宿す少女の姿を認めると、屋根から身軽に飛び降りる少年がいる。
そして‥‥‥二人はまるで、『運命に引き裂かれ再会した恋人』の様な熱い抱擁(望美:談)を繰り広げる。
これが、日課。
自他共に認める『らぶらぶ』っぷりは健在していた。
「昨日ね、敦盛くんの夢を見たんだよ」
顔を上げてにっこり笑う少女、の頬。
掌で撫でれば柔らかくて心地良い。
「‥‥‥そうか。良い夢ならいいが」
自然、敦盛にも笑顔は移る。
ゆきとは対照的に小さなものではあったが。
愛しい恋人の控え目な笑みに、いつもなら嬉しそうに飛び付くゆき。
「‥‥‥」
「ゆき?」
「‥‥‥あ!うん、いい夢だったよ!」
きゅっと口角を上げて、また笑う。
その笑みまでの一瞬。
切り取られた様に眼が揺れた事に、敦盛は気付いた。
気になる、だが‥‥‥
「それよりもお腹空いちゃった!ご飯食べようご飯」
逡巡した敦盛が口を開こうとした時にはもう、後ろ姿だった。
仕方ないと言葉を飲み込む。
前を行くゆきにいつでも触れる位置を、敦盛は保ちながら後ろを歩いた。
「走ると危‥‥っ!‥‥‥‥」
前に傾いだゆきの腕を掴み、後ろに引く。
今の様に、よく転ぶ恋人を持つと、自然とそうなってしまうのだ。
「あはは、ありがとう!」
「いや、いい。ゆきが無事ならそれで」
ほっとした様な敦盛の微笑を見れば当然の如く。
(‥‥‥可愛いっ!!)
「敦盛くん大好き!」
「‥‥‥ああ、私も」
‥‥‥そして二人の態勢は、抱擁という振り出しに戻る。
当たり前な日常に、最早誰も突っ込みなど入れなくなっていた。
怒らせた少年ほど怖いものはそうそう居ないのと‥‥‥‥‥‥この光景にすっかり慣れてしまったのと。
朝から一部の寂しい人物に取っては、眼に毒なものを見せ付けられている。
だが、仲睦まじい二人を微笑ましく思うのも事実。
けれど
ゆきは決して、口にしなかった。
敦盛は不安から、少女に強く聞けない事があった。
それは必ず訪れる、未来と言う暗雲。
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