(1/2)
 
 




あなたに


出会わなければ




私はどうしていただろうか。





暖かい手も、柔らかな笑顔も知らぬまま






消えるまで、ひとり



‥‥‥孤独を抱えて。







海の暁〜D〜
『逢唯之唄』









一日の終わりに二人きり。
屋根の上で寄り添う至福の瞬間。

星の海を見上げながら背後に感じる、あなたの体温が心地いい。


笛の音が疲れを拭いとっていく。





あの日聞こえた笛の音は私を支えてくれた。

繊細で優しい、貴方の掌みたいに。





大好きよ、敦盛くん。
















始まりは笛の音。

三草山の源氏の陣だった。








「‥‥‥あ‥‥」

「ゆきちゃん、どうしたの?」

「うん‥‥笛の音が聞こえる」

「本当ねゆき、微かだけど綺麗だわ」



駆け出しの陰陽師として、戦の参加を許可されたゆきは、凄まじく緊張して座り込んでいる。


なんたって合戦。


これから人の命が散るのを沢山見なければならないと思うと怖くてたまらない。


私に出来る事は結界を張って、皆が傷付かないようにすることだけ。


一人でも多くを守りたいと思えば思う程、足が竦んで動けなくなる。
そんな事が出来るのだろうか。
もしかしたら自分が足を引っ張るかもしれない。
一番役に立てないのは、自分自身なのだろうか。


戦う前からこんなのって情けない。

ゆきは泣きたくなった。



「大丈夫ゆき?真っ青よ」

「初陣だから仕方ないよ。私もそうだったもん!大丈夫だよ!私達がいるから!ね?」



元気付けようとしてくれる望美と朔の気持ちが嬉しい。



「ありがと‥‥頑張るね」

「うん!」



ゆきが曖昧に笑うと、よしよしと望美が頭を撫でて朔と共に九郎達の元へ走っていった。

彼らは軍会議でもしているだろうけど、彼女は加わらない。



「どうしよう‥‥私に出来るのかなあ」




怖くて泣きそうになっていたゆきの耳に、笛の音は静かに広がっていた。









遠く離れた場所から聞こえるそれは

とても優しくて暖かくて、
‥‥‥どこか孤独だった。












「‥‥‥‥‥」



きっと、笛の奏者も澄んだ心の持ち主なのだろう。

そう思わせる程に美しく純粋で、

ゆきの心の奥深くに染み渡っていった。







眼を閉じて、浸る。

次に眼を開けたとき、ゆきは迷いがなくなっていた。



 

 
BACK


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -