(1/3)
 



「風呂だイエ――っ!!!」

「入るぜイエ――っ!!!」

「ふふっ。望美もゆきもはしゃいじゃって」

「ほら、朔も!」

「イエ〜〜!!ってやるの!」

「はいはい、いえー!」





夏の夕刻。

赤くなり沈み始めた陽光。

楽しげに笑いながら拳を上に振り上げて「イエ〜〜!!」と飛び跳ねる三人の姿は、見ている者の目を和ませる。











海の暁〜C〜
『湯煙り恋情』










全身を使い喜びを表現するゆきは、まだあどけなさが抜け切れていない。

望美と同じ歳だが、どう見てもゆきは幼く見えてしまう。
ひとつ上の朔と並べば三姉妹のように見える。

そんなに温泉が嬉しいのか。

はしゃぐ彼女を見ているだけで、敦盛の頬は緩む。



「三人共あんなにはしゃいじゃって、可愛いね〜」



前を歩く景時が後ろにいる将臣達を振り返る。



「女って温泉好きだな。クソ暑いのによくはしゃくぜ」

「そう言うなよ将臣。可愛い姫君の笑顔はサイコーだからね」

「そうですね。三人共可愛らしいです。‥‥‥‥ねぇ、敦盛くん?」



最後尾に譲と歩く敦盛を、弁慶がからかう目をして振り返る。
釣られて将臣とヒノエと景時もニヤニヤしながらこちらを向いた。




「‥‥あ、ああ‥‥」



普段は内向的に見えるのに、ゆきが絡んだ時にだけ大胆になる敦盛は、今は少し赤くなっていた。




「こぉらそこーっ!!私の敦盛くんを苛めるな―っ!」

「苛めてねぇよ!」





先頭のゆきの大声に一同は苦笑した。




「なぁ、知ってるか?敦盛?」

「将臣殿?」



将臣が敦盛の肩に腕を回して内緒話のように耳元でこう言う。



「お前達みたいなのを、俺らの世界ではバカップルって言うんだぜ?」

「ばか‥‥‥‥ぷる?」

「ああ。仲がいい恋人っていう意味だ」

「そ、そうか‥」



真面目に頷く敦盛に、隣で聞いていた譲は吹き出しそうになるのを必死で堪えた。






その時、敦盛の頭に浮かんでいたのは

バカップル→ばかぷる?→馬鹿、ぷる?→馬鹿がプリンを食べる譲の手作りプリンを食べる将臣

だと知ったら将臣は怒るだろうか。












「将臣くん!譲くん!あれやろうよ!!懐かしいアレ!!」


あと少しで龍神温泉に着くと言う頃、未だはしゃぎまくる望美が後ろを向いて、幼馴染みを手招いた。



「アレですか‥‥」

「まじかよ‥‥」



呼ばれた二人はげんなりとしてるのに、望美は気付かない。



「やるのー?やらないのー?やらないと刀の錆にしてくれるよー?」



一部物騒な事を聞いた気がしたが、気のせいだろう。



「将臣、譲、やりなさい。それがお前達の運命だ」



リズヴァーンが二人の肩を叩き、静かに促す。




「チッ‥‥わかったよ!」

「仕方ない。先輩!いきますよー!」








幼き日、三人が何度も繰り返した懐かしい思い出。
余計な事は何も考えず、自由でいられたあの日に戻れたら。


少し切なくて、楽しくて、暖かいあの日々



でもね、あの時の気持ちを忘れずにいれば

今でもあの日は
ここに甦るんだよ‥‥‥








「いくよ!!」

「はい!!」

「おう!!」




「あの夕日に向かって走れコラ――――っ!!!」

「ハハハハ!!青春だ――――っ!!」

「待って二人とも――――っ!!」



三人は、怒濤のように走っていった。

















「‥‥‥‥‥‥‥‥」



何をするんだろう。

かなり長い前説に、色々と期待していた面々は何も言えずに立ち尽くしていた。



走り去った跡の砂煙を眺めながら、弁慶がゆきに尋ねる。



「‥‥‥ゆきさんの世界では、『夕日に向かって走る』事が懐かしくて、『笑いながら眼鏡をかけ直す』のが青春なのですか?」

「そう‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥かも知れません」

「変わった青春だね〜!っと、そうだ!朔、オレ達も走ろ「私達も走りましょう、ゆき」‥‥朔〜‥‥」

「よし!走ろう朔!‥‥みんなも走ろう!」

「うん。私も、はしるよ」

「全力疾走も鍛練のうちですね、先生!」

「うむ。気を集中させて走りなさい」

「姫君達とならいいぜ。風に乗って、どこまでも」



無印EDの台詞っぽいねヒノエ。



「敦盛くん、行こう?」



少し首を傾げて誘えば、彼が断れないのを知っている。
案の定、仕方ないな、と彼は少し笑った。
敦盛が差し出す右手に自分の左手を重ねて、皆に追い付く為に全力で走り出した。





 

 
BACK


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -