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「ヒノエに何か‥‥‥されて」

「大丈夫、なかったよ」

「そうか」


一歩前を歩く、敦盛の横顔を見る。

ゆきの言葉にホッとしたかのように、途端に頬を和ませた。


些細な変化。
それに気付く様になった自分。
敦盛との距離が縮まった気がして、単純に嬉しく思う。



(ってそうじゃない!!)



足を止めてぎゅっ、と手を後ろに引く。
かくん、と敦盛の体が小さく揺れて、ゆきを振り返った。



「‥‥‥さっきの、誰?」

「あれは 「誰?」」



敦盛は答えようとゆきの眼を覗き込んで‥‥‥‥‥‥息が止まりそうになった。




涙を溜めて、堪えるように真剣に自分を見つめるゆきに。

どんな些細な表情すら見逃さない、と言わんばかりの真摯な眼。



ゆきとは逆に、敦盛の眼は緩んだ。


「ゆきは、妬いてくれているのだろうか?」

「‥‥‥‥‥‥違うもん」


僅かに逸らせる視線。
その仕草が可愛らしくて、胸に暖かいものが満ちる。


ゆきはどこまでも、自分の胸に入り込んでくるから。

愛しくて、仕方ない。

可愛いと思って仕方ないのだ。



「‥‥‥ゆき。あれは弁慶殿だが」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥は?」

「昨夜、宴で飲み過ぎた弁慶殿が部屋を間違えたらしいが」

「嘘っ!だって金髪の‥‥‥」


言い掛けてゆきは、はっと気付く。


‥‥‥確かに、弁慶の髪は日の光に照らされると金色に見える。
そして、あの容貌。

髪を解いてしまえば、女性に見える。

―――しかも、かなりな美人で。



「うん。弁慶さんだって分かった‥‥‥疑ってごめんなさい」

「いや、いい。私もすぐに追いかけられなくて‥‥‥すまない」


ゆきが謝ると、敦盛も心底申し訳ないといった表情で眼を伏せる。


(ああもう!敦盛くん可愛い!!カッコいいし!!)



大好きで仕方ない、とゆきは敦盛にまたひとつ恋を重ねた。

彼が恋人で良かった、と。





「でも‥‥‥それはそれで面白くない」


にっこり笑ったかと思えば、次の瞬間には拗ねる。



「ゆき?」

「‥‥‥だって」

「?」


きっ、と顔を上げて敦盛を睨んだ。


「私より弁慶さんの方がずっとずっと美人なんだもん!!」


大真面目に拳を作って力説するゆきが可愛くて。

咄嗟に腕を掴んだ。



「‥‥‥いや。ゆきの方が‥‥‥もっと綺麗だ」

「敦盛くん‥‥‥本当?」

「ああ。ゆきの顔だけでなく、全てが‥‥‥綺麗だと思う」


眩しい程に。
静かな水面から登る朝の太陽の様に。


「‥‥‥敦盛くん!!」


ぎゅっと首に抱き付くゆきを受け止めて、その柔らかさに浸る。



出来れば、ずっと、このままでいたい。
だが。


「へっくしゅん!!」


豪快で男らしいくしゃみをひとつ、ゆきは鼻を擦りながら「へへっ」と笑った。

敦盛の腕の中で。



(‥‥‥仕方ない)


「そろそろ帰らねば、ゆき。風邪を引いてしまうから」

「うん‥‥‥」


名残惜しいというように、もう一度しがみつくゆきの頬に‥‥‥唇を押し当てる。




真っ赤に染まる、この表情は敦盛だけのもの。


「帰ろう」

「うん!」


二人、手を繋いで京邸へ歩いて行った。




「邸に帰ったら、弁慶さんにも謝らなきゃ」

「いや‥‥‥それは‥‥‥」

「??どうしたの?」

「い、いや‥‥‥弁慶殿は比叡山に暫く籠るそうだ」

「えっ!そうなんだ!突然だね」

「あ、ああ‥‥‥」









その後数日経って、何も覚えていない弁慶とヒノエが帰ってくるまで、
誰も敦盛と目を合わせようとしなかった、らしい。


「敦盛くん見て!美味しそうな花!」

「ゆきは花も食べるのか‥‥‥」



何も知らないゆきを除いて。











終わり


 

 
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