(2/3)
 
 


「‥‥‥ヒノエくん、あのね」

「うん?」

「聞きたい事が、あるの」


俯いて、瞬時ためらう。
意を決し顔を上げると、ゆきはヒノエの肩をがっしりと掴んだ。





「おたんこなすの『おたんこ』って何!?」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥は?」

「いや〜、おたんこなすの『なす』ってナスビの茄子だよね?じゃあさ、じゃあ『おたんこ』って何?」

「お‥‥‥」

「『お』『たんこ』?『おたん』『こ』?ねえどっちだと思う?」

「さ、さあね」


ゆきはヒノエの肩をがくがく揺さぶる。

互いの肩を掴み合ってぐらぐら揺れている二人は、傍から見れば滑稽な光景だろう。


「‥‥‥オレと一緒に来るなら、教えてやろうか?」


ゆきの興奮が一段落したのを見計らって、ヒノエは彼女の顎を指で掬った。


絡まる視線。


ゆきはふっと笑った。


「バカだね。そんな言葉に乗れる訳ないのに」

「へぇ‥‥‥ならさ、その気にさせてやるよ」


ゆきがくすっと笑う。
やっと見せた、それでもいつもと違う頼りない笑み。


「変なヒノエくん」

「変なのは今の姫君だろ?‥‥‥泣きそうな顔したまんまだぜ?」

「‥‥‥‥‥‥うん。泣きたいかも、私」


でも‥‥‥と呟きゆきは俯いた。
ヒノエの眼が煌めく。
ゆきの顎にかけた指先に力を込めて、くい、と持ち上げる。



「オレに夢中になればいい‥‥‥」



そう言って、目を閉じた。



‥‥‥瞬間、首筋に金属独特の冷たさ。

やっと来たか、とヒノエは閉じていた眼を開けた。






「‥‥‥遅いんじゃない?敦盛」

「ヒノエ」




静かな声。

‥‥‥だが、今までの敦盛を知っているからこそヒノエには分かる。



冷静な声音に潜む憤怒が。



内心冷や汗を掻く。
だがせめて、ゆきの眼には余裕の態度に見えるように努める。


「ゆきから手を、放せ」

「‥‥‥嫌だね。姫君を泣かす男に何も言われたくない」

「‥‥‥‥‥‥っ!!」


図星を指された敦盛は何も言い返せない。


「ゆき」


ヒノエが目の前の少女の名前を呼ぶ。


「‥‥‥ヒノエくん」

「オレと一緒に行くかい?」

「ヒノエ!!」



槍は下げる。が、珍しく声を荒げる敦盛に、ゆきの眼は釘付けになっていた。



「手を離してくれ。でなければ私は‥‥‥」

「わ、分かった放すから!!ゆきからも何か言っ‥‥‥」


嫌な予感がした。


「怒った敦盛くんってやっぱり素敵‥‥(うるうる)」

「やっぱりそう来たか!!」


そうだった、ゆきは敦盛命な少女だった。
勿論忘れていた訳ではない。
だが、



(怒った敦盛見て「萌える」って言うなんて有り得ないけど!!)



「四海流撃」

「そしてまたそれか!!」


お前ワンパターンだろ!?
とツッコミを入れながら水の渦に消えていくヒノエを見て、ゆきは思った。


(ワンパターンなんて言葉、誰から習ったんだろう‥‥‥)


ヒノエが可哀相だ、と思わない辺り、この光景が日常化されている事を物語っている。のかもしれない。



「ゆき」


「カッコいい〜‥‥‥」


「あ、ああ‥‥‥その、ゆきも、可愛い‥‥‥」

「敦盛くん‥‥‥」


差し出された手を掴み、引かれながら二人は互いしか見えていなかった。




さっきの事などすっかり忘れて。



 
 


BACK


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -