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「‥‥‥ヒノエくん、あのね」
「うん?」
「聞きたい事が、あるの」
俯いて、瞬時ためらう。
意を決し顔を上げると、ゆきはヒノエの肩をがっしりと掴んだ。
「おたんこなすの『おたんこ』って何!?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥は?」
「いや〜、おたんこなすの『なす』ってナスビの茄子だよね?じゃあさ、じゃあ『おたんこ』って何?」
「お‥‥‥」
「『お』『たんこ』?『おたん』『こ』?ねえどっちだと思う?」
「さ、さあね」
ゆきはヒノエの肩をがくがく揺さぶる。
互いの肩を掴み合ってぐらぐら揺れている二人は、傍から見れば滑稽な光景だろう。
「‥‥‥オレと一緒に来るなら、教えてやろうか?」
ゆきの興奮が一段落したのを見計らって、ヒノエは彼女の顎を指で掬った。
絡まる視線。
ゆきはふっと笑った。
「バカだね。そんな言葉に乗れる訳ないのに」
「へぇ‥‥‥ならさ、その気にさせてやるよ」
ゆきがくすっと笑う。
やっと見せた、それでもいつもと違う頼りない笑み。
「変なヒノエくん」
「変なのは今の姫君だろ?‥‥‥泣きそうな顔したまんまだぜ?」
「‥‥‥‥‥‥うん。泣きたいかも、私」
でも‥‥‥と呟きゆきは俯いた。
ヒノエの眼が煌めく。
ゆきの顎にかけた指先に力を込めて、くい、と持ち上げる。
「オレに夢中になればいい‥‥‥」
そう言って、目を閉じた。
‥‥‥瞬間、首筋に金属独特の冷たさ。
やっと来たか、とヒノエは閉じていた眼を開けた。
「‥‥‥遅いんじゃない?敦盛」
「ヒノエ」
静かな声。
‥‥‥だが、今までの敦盛を知っているからこそヒノエには分かる。
冷静な声音に潜む憤怒が。
内心冷や汗を掻く。
だがせめて、ゆきの眼には余裕の態度に見えるように努める。
「ゆきから手を、放せ」
「‥‥‥嫌だね。姫君を泣かす男に何も言われたくない」
「‥‥‥‥‥‥っ!!」
図星を指された敦盛は何も言い返せない。
「ゆき」
ヒノエが目の前の少女の名前を呼ぶ。
「‥‥‥ヒノエくん」
「オレと一緒に行くかい?」
「ヒノエ!!」
槍は下げる。が、珍しく声を荒げる敦盛に、ゆきの眼は釘付けになっていた。
「手を離してくれ。でなければ私は‥‥‥」
「わ、分かった放すから!!ゆきからも何か言っ‥‥‥」
嫌な予感がした。
「怒った敦盛くんってやっぱり素敵‥‥(うるうる)」
「やっぱりそう来たか!!」
そうだった、ゆきは敦盛命な少女だった。
勿論忘れていた訳ではない。
だが、
(怒った敦盛見て「萌える」って言うなんて有り得ないけど!!)
「四海流撃」
「そしてまたそれか!!」
お前ワンパターンだろ!?
とツッコミを入れながら水の渦に消えていくヒノエを見て、ゆきは思った。
(ワンパターンなんて言葉、誰から習ったんだろう‥‥‥)
ヒノエが可哀相だ、と思わない辺り、この光景が日常化されている事を物語っている。のかもしれない。
「ゆき」
「カッコいい〜‥‥‥」
「あ、ああ‥‥‥その、ゆきも、可愛い‥‥‥」
「敦盛くん‥‥‥」
差し出された手を掴み、引かれながら二人は互いしか見えていなかった。
さっきの事などすっかり忘れて。
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