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「ゆきさん、おはようございます」
「弁慶さん!おはようございます!!」
「ふふっ。今日は随分と元気ですね。何かいい事でもあるんですか?」
「‥‥‥‥うん、と‥‥‥秘密という事で」
弁慶さんの追求にかかれば、私の秘密なんかあっという間に暴かれちゃう。
だから、その口が開かれる前に逃げ出した。
「‥‥‥今日は空元気ではないようですね」
なんて、呟くのが聞こえた。
心配してくれたんだな。
申し訳ないなと思いながら、それが少し嬉しかった。
「‥‥‥朔っ!!」
「ゆき。ご飯はもう出来たわよ」
部屋で鏡と会話している間に、随分と時間が経ったみたい。
既に邸にいる全員が席に座ってこっちを見ていた。
‥‥‥お腹すいたな。
ご飯、食べてからでもいいか。
一瞬、そう思ったんだけどね。
ほら、熱は鉄い内に打てって言うじゃない。
‥‥‥って逆だから!!
「‥‥‥ゆき、どうした?座らないのか?」
九郎さんが声を掛ける。
あ、今意識が一人ボケツッコミに走っていく所だった。
「あのね、朔」
「どうかしたの?」
「‥‥‥‥‥‥うん」
本当はまだ、少しだけ迷っているけれど。
繋がりが切れてしまえば、会えなくなる気がして‥‥‥怖いけど。
でも、決めたの。
「髪、切って。ばっさりと」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥しゅ、出家ぇぇぇ!?」
「えええっ!?」
「ち、違う!!」
がしゃん、と食器の割れる音も聞こえた。
ねえ、ちょっとみんな、驚き過ぎだから!!
「本当にいいんだね〜?」
「うん」
「ほんっとにいいんだね?」
「うん」
「ほんっと〜に、いい 「しつこいよ景時さん」 うう、ゆきちゃんが冷たい‥‥‥」
三十路に片足突っ込んだ人が泣いても可愛げないから。
そう言うと、一層泣いたフリをしている。
「もう、ばっさりいっちゃって下さい」
「後悔しないね?」
背後で景時さんの声が真面目になった。
本当は朔に切って貰いたかったんだけど、髪を切るのが苦手だと辞退された。
望美ちゃんに至っては問題外。
だって元の世界にいた時に、美術赤点だって将臣くんが言っていたから。
それで、景時さんに白羽の矢が立った。
「ま、まさか尼になるとか」
「なりません。早く切っちゃって」
「‥‥‥分かったよ」
プツッと、剃刀を入れる音に、眼をぎゅっと瞑った。
刃を当てる度に、軽くなっていく髪。
二年間、積もらせてきた想いも、途切れた髪と同じにどんどん流れ落ちてゆくみたい。
一人で月を見上げたことも。
こっそりと屋根に登って、泣きそうになったことも。
更に言えばその後降りれなくなって、ヒノエくんに助けて貰ったことも。
笛を吹けるようになったこと。
それから‥‥‥‥
「景時さん」
「‥‥‥ん〜?」
「私は、海の暁なんだって」
景時さんは手先が起用だけどこだわりが凄くて、今もこうして毛先が綺麗になっているかこまめなチェックをしている。
話し掛けたはいいけど、やっぱり邪魔しちゃ悪いよね、と思って口を閉ざした。
けれど、聞こえていたみたい。
「‥‥‥‥海の暁?ああ、海面から朝日が登る瞬間だね〜‥‥‥うん、ゆきちゃんはそんな感じだな」
「本当ですか?今の私も、そんな感じ?」
私は今でも
暁の空みたいに笑っていますか?
彼が好きな私の笑顔で、笑っていますか?
「‥‥‥ゆきちゃん。答えは自分で分かっているよね?オレが答える事じゃ、ないよ」
「‥‥‥そう、ですね。ごめんなさい」
「い、いやぁ〜!!オレの方こそごめんね!!」
「いやいや!私が余計な事を聞いたからで!!」
「いやいやいや!!オレだってもっとちゃんとした答え方もあっただろうけどさ〜!!」
「いやいやいやいや!!やはり私が!」
「いやいやいやいやいやいや!」
「いやいやいやいやいやいやいやいや!」
何やってんの、私達。
おかしくて、ぷっと噴き出してしまう。
笑いは景時さんにも伝染して、二人でゲラゲラ笑った。
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