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「望美ちゃん!!お団子食べに行こうよ!!」
「ええっ?今から稽古なんだけどなぁ」
「すっごい行列が出来てるの!!六波羅の近くなんだけど、限定品らしいよ!?」
「う〜ん、それはいかなきゃなぁ‥‥‥よし!!朔も誘って行こう!」
「うん!!」
朔を呼んでくるね〜!!と邸に走っていくゆきの後姿を望美は眺めていた。
栗色の髪は伸び、腰を超えていた。
あの日から一度も切らずに伸ばし続けている。
望美はふふっと笑うと、リズヴァーンに稽古開始を遅らせて貰おうと、その姿を探した。
「春日先輩?」
廊下の向こうから後輩が呼びかける。
「あ、譲くん!今日のおやつはいらないからね。ゆきちゃんと朔と団子を食べに行くんだ」
「そうですか。分かりました‥‥‥っと、桜」
「あ、本当だ」
京邸の桜の木が少しだけ開花しているのを、譲が発見した。
望美は眼を細めて、小さく色付く花を見る。
「もう、二年だね」
ぽつり、と呟けば返って来る応え。
「そうですね‥‥‥元宮には、あっと言う間だったのかな」
「うん‥‥‥」
あの朝、目を真っ赤に腫らして帰ってきてから、ゆきは一言も敦盛のことを口にしなかった。
けれど、
伸ばしたままの髪。
縁談が来ても片っ端から断って。
すっかり綺麗になって、今では彼女を是非に、という情熱的な縁談が絶えない。
彼女が誰を思っているか、すぐ分かる。
「さぁて、リズ先生を探してくるね!」
「はい。いってらっしゃい」
すっかり梶原家の主婦‥‥‥もとい、主夫となった譲に見送られて望美は歩く。
敦盛さん。
早く、ゆきちゃんを迎えに来ないと知らないよ?
あんなに綺麗になったのは、きっと
あなたの為なんだから。
龍脈に還った怨霊は、五行をめぐる気となり大地に帰る。
「でも、きっと帰って来る」
望美は誰に聞かせるでもなく呟いた。
春、爛漫の午後のこと。
『海の暁』
終わり
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