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何度も何度も抱き締めた。


本当はもっと話もしたかった。
いくら敦盛が覚悟してきたと言っても、ゆきには唐突過ぎる。













全快を告げられたその翌日に、最愛の人を喪うのだから。
















それでも、彼女はもう泣かない。

どんな思いで今、敦盛を受け入れているのか分からないけれど。


与えられた初めての感覚に身を捩っても
引き裂かれそうな痛みに歯を食いしばっても

決して泣かなかった。




泣き声にも似た喘ぐ声。

愛しくて、何度も聞きたくなった。


































「ゆきは、海に昇る朝日のようだ」


「あさひ?」


空が白み出した頃、ぽつっと敦盛が漏らした。

すっかり疲れたゆきの身体は正直で、深い眠りを欲している。
けれども、眠るつもりはない。


昨日と同じ砂浜で、敦盛と肩を並べて、海に昇る朝日を見ていた。

敦盛の言葉を一語たりとも聞き逃さないように、耳を傾けながら。



「‥‥‥初めてゆきに出会った時から、ずっと思っていた。

貴女はいつも私を照らしてくれた。
いつも私に笑いかけてくれた。

愛しい、と思わせてくれた」


「‥‥‥うん‥‥‥‥‥‥」



敦盛は少し笑う。
手を伸ばすと、ゆきの前髪をかき分けた。

くすぐったそうに、でも嬉しそうに笑うその笑顔をじっと見つめている。



「貴女は私に、言葉では表せないほどのものを‥‥‥与えて、くれた」


「‥‥‥お互い様だよ」


「‥‥‥そうなのか」



すっかり眼を覚ましたゆきに、敦盛は唇を寄せた。
真っ赤になる彼女の頬。



「以前ゆきは、私を海のようだと例えてくれた。

‥‥‥私が海なら‥‥‥‥ゆきは海を照らす暁だと思う」


「‥‥‥海の暁?」


「ああ」


「そっかあ」








ふたりの視線が絡むと、お互い小さく笑った。















「‥‥‥神子」



離れて立つ神子と八葉達を、二人同時に振り返った。

朝日を背に、清々しい笑みを浮かべて。



「敦盛さん‥‥‥」

「敦盛。もう良いのだな」


望美は泣きそうになった。
見かねたのだろう、リズヴァーンが問いかける。


頷くのは敦盛とゆき、二人一緒。



「望美ちゃん、お願い」

「うん‥‥‥」



ゆきはもう泣いていない。
辛いはずなのに、悲しいはずなのに、それでも笑っている。
だから自分が泣くわけにはいかないと、望美は涙を堪えた。




「敦盛さん‥‥‥いきますよ」

「ああ。すまな‥‥‥いや、ありがとう」







望美は、眼を閉じて敦盛の腕に触れた。
そうしなければ零れそうだったから。





「‥‥‥めぐれ、天の声
 響け、地の声‥‥‥
     かのものを‥‥‥封印せよ‥‥‥」







光に包まれて消えてゆく彼の笑顔を、ゆきは眼裏に焼き付けた。












足元に落ちた小さな光るものを、ゆきはかがんで拾う。







「ごめん、一人にして‥‥‥」





皆が帰りやがて静寂が訪れた砂浜で、ゆきは一人泣き崩れた。










‥‥‥今だけ。
明日になれば笑うから、と。



拾ったのは、恋人になりたての頃に贈った、紫の、玉。

頬に触れると、僅かに暖かい。

そのぬくもりは敦盛そのものに似ていた。








「敦盛くん、敦盛くん敦盛くん‥‥‥‥‥‥あつも、りくん‥‥‥」
















敦盛くん



ねぇ、待ってる










いつか、未来で会えるって。














その時まで私、笑っているから。






  


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