(2/3)
 
  




「ではではっ!梶原家恒例雪合戦 「恒例になった覚えなどありません」 朔ぅ〜」

今度は雪に「の」の字を書き出す景時の肩に、弁慶が手を置いた。

優雅に微笑う。


「景時。君の口上はどうでもいいですから、さっさと始めましょう」

「弁慶まで‥‥‥」

「雪合戦‥‥‥戦だな!」
「うむ」

「ああ」

笑みを浮かべる弁慶の隣では、九郎とリズヴァーン、そして敦盛が黙々と雪玉を丸めていた。










一方。


「ゆきちゃん、白龍行くよ!」

「おうけーい!行くよ望美ちゃん!有川くんとヒノエくん。ついでに将臣くん」

「‥‥‥ゆき、お前な‥‥‥」



将臣がごちるのを無視して、ゆき達はせっせと雪玉を作り出す。

ふと、ヒノエが手を止めた。


「‥‥‥待ちな。作戦を立てようぜ」

「作戦?ヒノエはどんな作戦を立てるの」


きょとんとした白龍にヒノエはニヤッと笑う。


「まずは敵の頭脳を叩けば、布陣は乱れるってね」


流し目で、いっそウィンクしそうに笑うヒノエに、望美達は頷いた。


「なるほど。要は弁慶さんを狙いたいだけなんだね」

「ゆき。ヒノエは弁慶が嫌い?」

「嫌いって言うか‥‥‥宿敵、ってやつかな」

「ふぅん」

「白龍、オレはここにいるんだからさ、本人に聞けよな」


望美の言葉を受けた白龍が首を傾げる。
ゆきが答えると納得したのか頷いた。






「いっくよ〜!!」



景時の号令で、一斉に始まった。

ヒノエの予想に反し望美達は誰一人、弁慶を狙わない。


仕返しが怖いからだったりする。

将臣と譲は内心で謝りながら、弁慶がヒノエを追い回すのを見ていた。


「‥‥‥兄上。雪合戦と言い出したのは兄上ではありませんか。何を作っているのかしら」

「あ‥‥‥あはは〜、つい」


背後を立つ朔に呼び止められて苦笑しながら振り返る景時の手には、
ハンディサイズの雪像(頼朝)

「‥‥‥ストレス溜まってるんだね、景時さん‥‥」

「すと、れす‥?あ、ああ。ありがとう望美ちゃん」


望美と景時はしんみりと溜め息を吐いていた。







「九郎さん!覚悟っ!!」


背後に気配を感じ九郎は振り向く。
今居た場所に落ちる雪玉。


「ゆき!!そんな軟弱な力で当たる訳がなかろう!!」


言葉と同時、手にしていた雪玉を投げ付ける。


「きゃあっ!!」

「‥‥‥しまった!」


時は既に遅し。
咄嗟に手加減なしで投げ付けた玉は、ゆきの顔面を直撃した。

日頃から鍛えられた体躯から生み出される、容赦ない力。


衝撃でゆきは後ろに転ぶと、尻餅をついた。



「すまん!大丈夫か!?」

「う〜、雪が眼に入った。冷たい‥‥‥」



顔についた雪を払おうとするゆきの手を、九郎は掴む。
特に他意はなく、ただ謝罪のつもりからの行動。


「こら、顔を擦るな‥‥‥上を向け」

「へ?や、いいよ‥‥‥ぶっ」

「遠慮するな」


ゆきの顔を丹念になぞる。


眼を瞑る彼女には見えない。
九郎の綺麗な指先や、真剣に溶けかけた雪と格闘する眼差し。

でも、気配が彼女に伝えた。


九郎の背後に佇むのは最愛の‥‥



「九郎殿。ゆきに触れないで頂きたい」



‥‥‥‥‥敦盛。





「‥ちっ違うぞ敦盛!これは玉がぶつけてしまった俺をだな」


慌てふためいて何を言っているのか分からない九郎。
ぶるぶると激しく首を降る。

敦盛の逆襲が怖いからなのか、ゆきに負い目があるからか。



「違うんだよ敦盛くん。九郎さんが投げた玉が当たったから、顔の雪を払ってくれたんだよ」


ゆきがニコニコと敦盛を見る。

その笑顔はいつもの様に明るくて、疚しさの欠片などないようだ。



「そうか‥‥‥ゆき、私達は敵同士だが‥‥‥」


敦盛はゆきの手を引き立たせた。顔に触れる指先。


「うん、分かってる‥‥‥でもこの気持ちは変わらないよ」

「私も。ゆきを狙う事など出来ないっ‥‥‥だから」


暫くは離れていよう。
これが二人の出した答えだった。

雪合戦の組分けの結果は、容赦なく恋人達に試練を与える。


「お前達‥‥‥その覚悟は立派だ!戦に情けは無用だからな!」


戦ではなく雪合戦だとすっかり忘れたのか、そもそも何も考えていないのか。
九郎は爽やかに笑った。


「じゃあ、敦盛くん‥‥‥って何で顔を撫でてるの?」

「いや‥‥‥何でもない」


敦盛は丁寧にゆきの顔をなぞると離れた。


(九郎殿に触れられたから)


‥‥‥とは言えずに。




運命(組分け)に引き裂かれた恋人達は、互いに近付かない様に背を向けた。
















「‥‥‥げっ」

「おや、随分な挨拶ですね」

「うわ‥よりにもよって一番厄介な人だよ」

「ふふっ。ゆきさんは可愛いですよ」

「あはは〜」



激しい雪の攻防戦は続く。


たまに何処かで爆発音が聞こえたり閃光が見えたり絶叫が聞こえたりしたが、この面子ならさして珍しい事ではない。


ただ一行中で一番体力の乏しく非力なゆきは、被害に遭わぬ様に隠れ場所を探していた。




‥‥‥サボリとも言うが。





(どうしよう‥‥‥この人を撒くのは骨が折れそう)



僕を撒こうだなんて十年早いですよ?

「ぎゃあっ!何でバレるの〜っ!?」

「君は分かりやすいから」


じり、と一歩踏み出す弁慶は綺麗な笑顔。

その分、一歩下がるゆきは冷や汗を掻いていた。


「酷いな。もしかしたら前世では恋人だったかも知れないのに、そんな態度はないでしょう」

「わ、私と弁慶さんが恋人!?な、な、ないない!」

「それはどうでしょうか?君が敦盛くんを選ばなければ、もしかしたら‥‥‥」

「えええええっ!?」

「有り得ない事ではないでしょう?」



あくまでもにこやかに笑う弁慶の真意が掴めない。



「有り得ない気がするんだけどなあ‥‥‥」

「ふふっ。ゆきさんは面白いですね」




一歩、また一歩とこちらに迫ってくる弁慶が、怖い。
しかも笑顔。


(ジェイソンだ!ジェイソンみたいだよ!!)


じりじり、と苦笑いしながらゆきも下がる。






その時、だった。



「‥‥‥‥‥‥えっ!?」

「ゆきさん?」


唐突に、愕然とゆきは顔を上げた。



「弁慶さんっ!怨霊が‥‥‥」

「‥‥‥怨霊、ですか?何故今になって‥‥‥」



そこでハッと言葉を区切った。


消去法から弁慶が導き出した答えが、正しい事がゆきの表情で分かる。


突如、現われた気の歪み。

‥‥‥それが、同じだとゆきは気付いてしまった。


「う、そ‥‥‥」


気の抜けた呟きと共に、彼女の眼が虚ろな鈍い光を宿してゆく。


「ゆきさん」



呆然と、今にもへたりこみそうなゆきに近付き、弁慶は彼女の頬に乾いた音を立てた。

あくまで力を加減した平手。けれどゆきの意識を戻すには、充分。



「行きましょう。ここに居ても何も出来ません」

「‥‥‥‥はい!!」



走り出す。
焦りと心配からだろう、ゆきの足は普段の比でなく速い。




  



BACK


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -