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スパン!!!
走った勢いのまま開けた戸が廊下の奥へ飛んで行ったが(ついでに白龍の悲鳴が聞こえた気がしたが)、私は確認する余裕さえなかった。
目の前の光景に衝撃を隠せずにいる。
「敦盛さん!!」
「敦盛!!」
「やっと来たか!!遅え!!」
神子、譲、将臣殿が私を横目で一瞬だけ見て口々に叫んだ。
将臣殿に「ああ‥すまない」と条件反射で謝ってしまい、もう一度室内を確認する。
まず、神子と譲。
何故神子は愛用の刀を構えているのだろうか。
部屋の隅で一撃必殺の‘ちゃんす(将臣殿語)’を狙っているように見える。
譲。
弓を構えるのはいいが室内では狭いのでは。
「あなたが先輩を撃つと言うなら、俺はあなたを射る!」
とぶつぶついっているのが聞こえるが、何か辛い思い出が甦ったのだろうか。
私の譲を見る目に、痛々しさが滲んでいるかもしれない。
私はもう一方の隅を見た。
そこにはリズ先生が腰をさすりながら柱に凭れかかり「何故この運命を選んだ‥」と虚ろな目をしておられた。
この運命とはなんだろう。
それに誰に向けた言葉なのか。
涙を流しているように見えるのは選ばれてしまった‘運命’とやらのせいか、腰痛のせいか。
現実逃避願望のせいかもしれない。
そんな目をしている。
「あっ‥敦、盛!!早く止めろ!!」
将臣殿の沈痛な叫びに「ああ‥すまない」と条件反射で答えてそちらを見る。
将臣殿は自慢の立派な両手剣を正眼に構え、凄まじい気迫を放っている。
こんな凶悪な目付きで見られたら、どんな怨霊も冥府へと帰りたくなるだろう。
まさに還内府と言うべき武将の目だ(だ、駄洒落のつもりだが‥すまない‥)
しかし彼の着物が所々裂け、赤い液体が付着しているのを見て私は目を見開いた。
平家で最も恐れられた還内府殿をここまで追い詰めた者がいるとは‥‥‥!!
どんな手繰れなのだろうか。
私の位置からは将臣殿の背中で死角になっているため良く見えない。
一歩横にずれて、部屋の奥に佇む人物を見つけ驚愕した。
「‥‥‥‥!!」
片手に九郎殿の赤い柄の刀。
もう片手にはリズ先生の曲刀。
二本を交差して構えるのは、最愛のゆきだった‥‥‥。
これは何かの間違いだろう。
確かゆきは陰陽師であって武士ではない。
刀など握った事がないと聞いている。
ところが、今私の前で悠然と構えるゆきに隙が全くない。
ゆきは非力なんだ。
だが目の前にいるゆきは刀二本(しかも一本はかなり大きい)を空気の様に振りかざしている。
これは誰だ?
いや、間違いなくゆきなのだ。解っているのだが‥‥‥
将臣殿と切り結ぶゆきの表情に悦びが浮かんでいるのを見て、私は‘でじゃぶ’(将臣殿語)を覚えた。
「敦盛」
「あ、ああ‥将臣殿」
「お前、今のゆきを見て何かを思い出さないか?」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「将臣くん私も、凄く引っ掛かる‥‥」
「兄さん、俺も同感だ」
将臣殿、私は答えるのが恐ろしい。
戦いながら冷や汗を掻いている将臣殿と、答えあぐねている私を見て、ゆきが唇の端を持ち上げるように笑った。
この、表情は誰かに似ている‥‥。
私の血縁に一人、こんな人間がいたような‥‥‥。
「私を、楽しませて‥‥くれるよね‥‥‥?」
「「「やっぱり知盛(殿)かーーっ!!」」」」
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