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「ゆきちゃん、ちょっといいかな〜?」
朝食を済ませて部屋を出たゆきを呼び止める声がする。
「景時さん?どうしたんですか?」
「この前の結界呪の術式が間違えちゃってたんだよ」
ちなみに、ゆきは新米陰陽師である。
景時とは同業者。もしくは先輩後輩の仲でもあった。
「そうなんですか?依頼受けた時に使ったけど、上手くいってましたよ?」
「えっ?もう使ったの?さすがだね〜!」
「ありがとうございます!」
「それで‥‥良ければさ〜、後で俺の部屋に来ないかな‥?ちゃんとした術式を教えたいし、その‥‥話も、したいし‥」
「いいですよ。次の仕事までに覚えておきたいし。後で行きますね」
「う、うん!待ってるね〜!」
景時は真っ赤な顔で走って行った。
(景時さん、熱でもあるのかな?)
背後に、気配を絶ちながら控える者がいる事を、ゆきは知らずにいる。
『‥‥』
「失礼しま〜す!景時さん?‥‥‥‥‥っていない‥‥‥」
部屋はもぬけの殻だった。
「急用かな?ここ最近、忙しそうだったし‥」
う〜ん、と腕を組む。
「夕方来るって置き手紙しておけばいいよね!‥‥‥‥‥これでよし!っと‥‥‥あ、そうだ!敦盛くんにアレ渡そうっと!」
軽やかな足取りのゆきが部屋を出て行った。
恋する者独特の表情を浮かべて。
「敦盛くん!」
求める人は、中庭に座り込んでいた。
びっくりして駆け寄ると、息が荒く顔も赤い。
「ど‥‥どうしたの!?風邪でも引いたのっ?」
正面に座り、手を額に宛てる。
少し熱い。
ゆきは心配そうに見上げた。
眼前に恋しい人の顔。
それだけで、敦盛の動悸は速くなる。
「い、いや‥‥風邪ではない。少し‥‥手間取っただけ、なんだ」
「(手間取った?)‥‥大丈夫ならいいんだけど‥‥あ、そうだ!はい、敦盛くん!!」
懐から取り出して手渡すは紫の玉の首飾り。
「綺麗な玉を市で見つけたの。紐を編み混んだりしたから、出来上がりが遅くなっちゃったけど‥‥‥」
小指の先程の紫玉には、銀色で細かな模様が描かれていて。
黒い紐に紫と銀の小さな玉が編み混まれ、中央の玉を引き立てている。
「これを‥ゆきが作ったのか?」
「うん。私とお揃いなんだけど‥‥嫌、かな‥」
自信なさげに呟くと、瞬く間に背中に回る腕。
「あっ敦盛くん‥」
「ありがとう‥‥ゆきの手で付けてくれないか?」
「うん‥」
お互いの手で、首に紐を結び付けた。
そうしてにっこりと笑い合う。
「ゆき、良ければ‥この後、市にいかないか?」
「うん!着物も出来上がってるだろうしね!」
「着物を仕立てたのか?」
「珍しい?」
滅多にお洒落しないしね。
そう言うと、敦盛に少し笑われた。
「ああ‥そうだな。ゆきは何もしなくても可愛いから‥‥」
「‥‥あ、あの‥‥」
恥ずかしくて俯くゆき。
目指す店は市の端にある。中には色鮮やかな着物や反物と帯、小物などが陳列していた。
「こちらでお間違いございませんか?」
包みを解くと、薄紫地に濃い色彩の木蓮の花模様。
「はい。間違いないです」
満足そうに目を細めるゆきの横で、思案顔の敦盛が立っている。
彼は店内をゆっくり見回すと、ある一点に目を止め、指を指して言った。
「‥その帯を、見せて貰えないだろうか‥‥」
「こちらでございますか?‥‥ああ、お着物に良く合いますね」
お目が高いです。と感心している店主。
元々平家の公達である敦盛なので、美的感覚もなかなかのものだったりする。
「ではこれを頼む‥‥今、着せて欲しい」
「敦盛くん?」
敦盛が何をしたいのか良く解らなくて、尋ねるゆき。
「首飾りの、お礼なのだが」
「そんなっ!悪いよ!」
激しく首を振るゆきに、切なそうな目をして敦盛は言った。
「‥‥私が見たいんだ。駄目、だろうか?」
「全然おっけーです着替えて来ます!」
(小首を傾げる敦盛くん可愛すぎっ!!)
凄い勢いで着物を抱えて店の奥に駆け込んだ。
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